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2007年9月 8日 (土)

フィートウ

まずは謝ろう。本当に申し訳ない。

何の事かって?台風だよ、台風。

何でお前が台風の事で謝るのか、だって?

いや、色々全国に被害及ぼしてるしさ。

死者だって出てるし、一応謝っとかないと。

…だから何でお前が謝るのかって?

だって、台風が日本に来るのは俺のせいだし。

おいおい、そんな顔するなよ。マジだぜ。

…確かに、海流とか大陸性高気圧とかの影響はあるさ。

でも、台風が日本に来るのは、俺に会いに来てるからなんだ。

いいから聞けよ。

俺の爺さんの話だ。

俺の爺さんは戦争で赤道付近の南太平洋にいたんだ。

海軍で駆逐艦に乗ってたんだそうだ。

でもまあ、アメリカ海軍との激戦でやられてな。

艦は撃沈、爺さんは海に投げ出された。

それから何日も、爺さんは艦の破片に捕まって漂流した。

で、漂流して数日後、爺さんは信じられないものを見たんだ。

海の上に立っている、女の姿を。

それはそれは美しい女で、爺さんはたちまち恋に落ちた。

女のほうもすぐ爺さんに惚れたみたいだ。そう聞いた。

…いや、本当にその女が居たかなんて知らんよ。

爺さんの話さ。

幻覚?まあ、そうかもな。

で、女は爺さんを助けてやると言って来た。

ただし、条件がある。

条件って?自分との子供を作って欲しい、だそうだ。

…解った。でももうちょっと話を聞いてけよ、な?

ま、数十日飲まず食わずだったんだ。

爺さんに選択の余地なんか無いよな。

するとたちまち晴天の空が曇り、スコールが降り出した。

爺さんはそれで喉の渇きを潤した。

さらに、何故か次々と周りに魚が飛び跳ね始めた。

それを食って飢えをしのいだ。

いや、子供を作る話はしてくれなかった。

この話聞いたのは、俺がまだ子供の頃だったからな。

さすがにそんな話は出来なかったんだろうさ。

でも、その女とは海の上で何日か暮らしたそうだ。

漂流してから、日にちの勘定は出来なかったらしいけど。

まあとにかく、数日後。

女が突然別れを告げたそうだ。

爺さんはそのまま海の上で暮らしてもいいくらい女に惚れていた。

でも、ルールらしく、どうしても別れなければいけない。

突然のスコールが収まると女は消えていた。

暫らくして、アメリカ軍の艦船が近くを通りかかった。

爺さんは収容され、そのまま終戦を迎えた。

それからだ。

無事に復員したじいさんの元を、毎年のように訪れてくるんだ。

じいさんとあの女の子供が。

ま、分身、と言ったほうが良いのかもな。

カスリーン、アイオン、ジェーン…。

終戦から暫らくは結構洒落た名前も着いていたっけ。

そう、台風のことさ。

え?台風を生むその女の正体?

爺さんから何も聞いてないよ、そんなの。

でも、赤道付近は「台風が生まれる場所」って言うしなぁ。

それから、台風が来ると決まって爺さんは一人で出かけていく。

そして、台風が去る頃には帰ってくる。

毎回、びしょぬれで満足そうな顔してな。

やがて爺さんは死に、父さんが台風の中を出かけるようになった。

ところがその父さんが、1年前突然交通事故で亡くなった。知ってるだろ?

となると台風が次に目指してくるのは…そう、俺さ。

愛した男の孫の顔を見に、毎年彼女らはやってくるのさ。

…いや、それだけじゃない。

新たな台風の子供を生み出すため、その親を見つけるために。

…ふむ。

ま、信じなくてもいい。単なる与太話さ。

酒の肴くらいにはなっただろう?

うん。

で、俺が先日の台風の中、何処に出かけてたかって?

そりゃお前、秘密さ。

…フィートウちゃん、南国の香りがしたっけ。

可愛かったなぁ…。

*フィートウ
ミクロネシアの花の名前。台風9号のアジア名。

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