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2007年9月10日 (月)

アイドル愚考録(1)

色気という言葉がある。
気はもともと「ほのかにたちのぼる蒸気」という意味。つまり色気とは、彼女もしくは彼から、ゆらゆらとたちのぼる、仄かな艶かしさのことをさす。

ところが昨今のグラビア業界を見回せば、どちらを向いても本来の意味からはかけ離れた、極限まで肌の露出を高め、無理やりに色気を作り出したような写真が実に多い。

正直、これはこれで嬉しくもあるのだが、似たようなポーズや衣装が増えるため、グラビアアイドルたちから個性を奪い、寿命を縮めることになりはしないかと心配になってくる。

ところで、この色気の大量生産が常態となりつつあるグラビア界で、逆に色気がないことでブレイクするかもしれないグラビアアイドルがいる、と言ったら信じられるだろうか。

その稀有なアイドルとは、磯山さやかである。

私は昔から彼女という存在が不思議でならなかった。顔は可愛いし、厚みのある唇も魅力的で、身体つきも小柄な割には十分にグラマラスである。ところがたちのぼってこないのだ。色気が。

愚考を重ねること数年、近頃、その理由がようやく分かった。

彼女はあまりに健康的すぎるのである。

色気を構成する重要な因子である、背徳感や倦怠感などの暗い部分が存在していないのだ。彼女には暗がりがない。つねに明るい太陽のイメージが付き纏う。それも南国の、肌を焼くような異国の太陽ではなく、ごく日常的な、夏休みの太陽だ。

写真集を購入するときの心理には、日常では体験できない、<異化>された空間を目の当たりにしたいという要求があるが、彼女にはそれを満たせるだけの力がなかった。それゆえ写真集の売り上げは、他のトップグループからは、かなり水をあけられていた。

しかし今、彼女に転機が訪れようとしている。

現在、磯山さやかは、野球好きのアイドルとして広く世に知られている。
野球が好きだというアイドルは数多くいるが、彼女は一味違う。高校野球でマネージャーをやっていたという彼女は、スコアブックがつけられるのだ。
この「スコアブックがつけられる」という実に明確で分かりやすいアピールポイントがあったお陰で、他のライバルよりも野球関係の番組やイベントに多く起用され、昨年にはヤクルトスワローズの公式女子マネージャーという大役まで見事に射止めてみせた。

好きだからであろう。野球関係の仕事で見かける彼女は、ふだんのグラビアやバラエティーよりも数段いい表情を浮かべている。うわべの笑いではなく、嬉しい、楽しいから笑う、という人間本来の笑顔だ。

そんな彼女の姿を見ている内、私はあるひとつの天啓を得た。

彼女の真の狙うべきターゲット層は中年層であったのだ。
彼女は、彼らの理想的な<娘>になれる可能性をもっていた。

かつての理想的な<娘>のイメージは、清楚で素直で優しい、例を出せば石原さとみのようなタイプの美少女であったが、すでに何年も前にその現実性を失っている。その後、やってきた理想の<娘>とは、小生意気な口を利き、何かと反発してくるが、ふとしたときに思わぬ愛らしさを見せるような──既に懐かしさすら伴う表現だが──ツンデレめいた少女である。

ここで磯山さやかの顔を思い浮かべて欲しい。柔らかい曲線で構成されながらも、実は少し意地の悪い顔をしている。ぽってりとした唇もどこか不機嫌そうである。この手の顔が、もっとも魅力的に映るのは少しむすっとした表情を浮かべているときなのである。彼女は、先に述べた理想の<娘>という条件に適った顔の持ち主だったのだ。

そして彼女を<娘>として捕らえなおすならば、彼女の色気のなさは逆にプラスに働く。<娘>にいちいち色気を感じていたら日常生活も覚束なくなる。可愛い、という程度に留めておくのが<娘>には相応しい。

が、無論、それだけで彼女が理想の<娘>となれると考えたわけではない。もうひとつ大きな理由がある。

それは彼女が、野球が好きだということだ。

これがサッカーでもゴルフでもいけない。サッカーは流行的すぎるし、ゴルフでは一緒に競技ができてしまう。つまり勝ち負けが生じる。たとえ親子関係であっても、面子というものが絡むと、男はとたんに冷静さを失ってしまう生き物なのである。だから、中年男性が<娘>と観戦するにもっとも相応しいスポーツは、現在もメジャーでありながらノスタルジーを感じさせる競技、すなわち野球なのだ。

彼女にはぜひとも野球場での撮影を望む。客足のまばらな、呑気さと開放感のある昼間の試合から、スタンドを熱狂する観客が埋め尽くしたナイトゲームまで。そこでメガホンを振り上げる彼女の姿が私は見たい。きっといい写真が撮れるはずだ。

そして、これは私の推測だが、その写真には、かなりの確立で写るはずである。そう。なかったはずの色気が。

彼女を<娘>として捕らえなおす。ただそれだけの行為が、この見る側の単なる意識の組みなおしが、彼女に色気を生じさせる。いや、生じさせてしまう。

本来、色気、色香などというものは、自発的に生み出されるものではなく、受け取る側がそこに勝手に見出すものであった。それは対象となる人物の何気ない日常のひとこま──たとえば髪を梳かす素振り、タバコを咥える仕草──からである。我々はどうしてそこに色気を感じるのか。それは脳が不意打ちに弱いからだ。水着姿の女性が挑発的なポーズをしている写真よりも、日常と繋がっている行動から感じた色っぽさの方が、受け手がノーガードで緩んでいた分、強烈な衝撃となり、それだけくっきりと心に焼きつく。

磯山さやかは普段通りの振る舞いをしているだけで、いや普段通りの行動だからこそ、受け取り手は勝手にそこに仄かな色気を感じる。そして擬似ではあるが<娘>にこんな感情を抱くとは、と奇妙な背徳感に囚われ、その後ろめたさが逆にスパイスとなって彼女の魅力を勝手に高めていく。

どこか、このコンセプトできちんとした写真集を出してくれないものだろうか。磯山さやかはそれをきっかけに一気にブレイクする。私はそう確信しているのだが。

それにしても、出そうとすると消え、隠そうとすると生じる。まったく色気とは難しいものである。

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