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2007年9月 8日 (土)

脳内メイカー

俺はこの世界の主だ。

俺の世界は、この四畳半の部屋。

俺には、この世界だけあればいい。

…。

いや、この世界だけではダメだ。

俺には、命よりも大事なものある。

それが彼女だ。

分からず屋の親や心理ナンタラの先生には見えないが、俺には見える。

彼女は存在するのだ。彼女は俺の理想の女性だ。

身の回りの世話をしてくれる。料理を作ってくれる。

話し相手になってくれる。

想像するだけで好きな格好をさせられる。

そりゃあ…夜には色んな格好で色んな事もするさ。

でも彼女は何をしたって喜んでくれる。

俺がそう望んでいるから。そう妄想したから。

彼女の居るこの世界があれば、俺は生きていける。

そう思っていた。

だが、ある日から彼女の態度がよそよそしくなる。

俺には一切隠し事をしない彼女に、一体何があったのか。

思い切って尋ねると、彼女は言った。

「私は私のすべてをあなたに見せたわ」

「だから今度はあなたが私にすべてを見せて」

何と言うことだ。彼女が反抗した。この世界の主に。

俺は彼女を痛めつけた。死にそうなほど痛めつけても彼女は死なない。

俺がそう望むからだ。

だが、どんなに痛めつけても彼女の反抗的な態度は変わらない。

俺のすべてを見せろといっても、俺のすべては彼女自身じゃないか。

そんなことも解らないのか。俺の妄想から生まれたくせに。


ある日目覚めると、俺の世界から彼女が消えていた。

「あなたには愛想がつきました。出て行きます」とメモを残して。

彼女の消え去った世界。

俺の世界は無限に広がる荒野となった。

あてども無く荒野をさまよう俺。

彼女が居なければ、俺の存在する意味も無い。

彼女は俺のすべてだから。

俺のすべてを失った俺は、どうするべきか。

死だ。

俺はナイフを握り締め、手首を切り裂いた。

だが、俺は死ななかった。

何故だ?

俺の世界の主は、俺なのに、俺の意思で死ねないなんて。

…ああ、解った。

俺も誰かの妄想で作られた存在なんだ。

俺の妄想主が、俺の死ぬ事を望んでいないんだ。彼女と同じように。

畜生、何てことだ。

…おい、聞いてるか、妄想主。俺もお前に愛想が尽きた。

俺もお前の妄想から出て行ってやる!

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