« NO.3 関俊彦 | トップページ | 疎外感 »

2007年10月22日 (月)

安田美沙子とつげ義春( アイドル愚考録 )

今回のブログを読んだ人の中に、果たして私の愚見に賛同してくれる同志がいるものか。

甚だしく不安ではあるが、僅かな勇気を掻き集め、淡い期待を抱きつつ論を進めるとしよう。

フライデー11月2日号の表紙は安田美沙子である。

片膝を立てて床に座った安田美沙子は、その膝の下にもう片方の足をくぐらせている。奇妙な座り方だ。どこかに似た座り方の仏像があった気もする。

しかしそこに浮かぶ表情は仏像のように柔和ではない。

鋭い眼差しをこちらに向ける彼女は、今にもこちらに詰め寄ってくるような、爆発寸前の苛立ちに憑かれている。

それにしても夜の女のような蓮っ葉な表情を覚えてから、彼女のグラビアは本当に魅力的な危うさを放つようになった。

しかし、今回の主題はそこではない。

問題にしたいのは安田美沙子の右手のゆくえである。

彼女の右手は胸前を通って左肩のすぐ下を押さえている。

それは『 ねじ式 』の主人公と同じポーズだ。

つげ義春の名前を不動のものとした名作漫画、ねじ式の冒頭で、主人公はメメクラゲに刺された左腕を右手で押さえ、不安とも諦観ともつかぬ曖昧な顔つきで立っている。

彼女の表紙を見た瞬間、その一場面がフラッシュバックした。

最初は両者を結ぶ糸が見えず、すぐに棄却した直観ではあったが、時間が経つ内、安田美沙子とねじ式の間に、細くて見えなかった一本の糸が繋がっていることに気がついた。

それを気付かせてくれたのはアンディ・ウォーホルであった。

私は自分が、安田美沙子の笑顔をアンディ・ウォーホルのアートのようだと書いたことを思い出したのだ。

ウォーホルはキャンベルの缶詰やコーラ瓶を使ってポップアートを製作したが、中でも特に印象深かったのは、一枚のオリジナルから色違いで大量にプリントしたコピーを作り、それらを組み合わせてひとつの作品を仕上げたことだ。

彼がそこに何の意味をこめたのかは分からないが、私はそこに大量生産と大量消費を繰り返す社会への挑発を感じた。

そして、テレビCMで彼女が話題に上り始めた頃、グラビアやテレビで彼女の笑顔を眺めながら、私はあの笑顔ならばウォーホルのアートにぴったりだろうと感じた。

その頃の彼女の笑顔が、缶詰やコーラ瓶同様、巨大な工場で次から次に生産されていく商品、たったひとつのオリジナルではなく、そこから複製されたコピーに見えたからである。

無論、それらは昔のことで現在はまるで状況が違う。

前述の通り、危うさを孕んだ悪女の顔を手に入れた彼女は、グラビアアイドルとしての地位を高めていった。しかもそのことで、弱点であった笑顔の価値すら相対的に上がっていくという奇妙な現象がおきた。風は彼女に吹いたのだ。

ところで、私がねじ式に触れたのは高校生の頃だ。

幼いながらも何か大きなものが潜んでいると感じたが、その時、ある一場面が気になった。

中盤辺りだったか、医者を探して街を歩き回る主人公は、金太郎飴売りに身を窶していた母親と再会する。そこで母親は金太郎飴を包丁でざくざくと切り落とすのだが、切られた断面が同じ金太郎の顔で「ぽきん金太郎。ぽきん金太郎」と言うのだ。

当時の私にはまるで理解できず、すっかり忘れていたこのシーンが、ねじ式と安田美沙子の関連性を考えていた時、ふいに甦った。

ウォーホルと安田美沙子について書いたという記憶が意識の場に浮いてきた時、芋づる式に浮かんできたのだ。

そして私は天啓を得た。

あれは敗戦後の日本の姿ではなかったか。

アメリカの洗礼を受け、全てを大量生産しては消費に走っていく、日本の社会を皮肉ったメタファーではなかったのか。

そう考えると、あの表紙に厳重に隠蔽されていたカメラマンの意図が見えてくる。

型に嵌まった笑顔が次々と並べられていくグラビア界において、特にその笑顔を安価で大量生産していた安田美沙子と、大量生産社会を皮肉る場面が挿入されていたねじ式。

両者を繋ぐ『 大量生産 』というキーワード。

今回の表紙を撮ったカメラマンが、このグラビアに潜ませたメッセージとは、このまま笑顔の大量消費を続けるのは自らの首を絞めるような愚行に他ならない、という現在のグラビア界への警鐘ではあるまいか。

我々は新たなステージへ移行すべきである、という決意表明ではなかったか。

そしてそれは安田美沙子のグラビアでなければならなかった。

それまでの笑顔を剥ぎ取るという、自らの血を流す強い覚悟を見せ、それを成功させた安田美沙子でなければ。

|

« NO.3 関俊彦 | トップページ | 疎外感 »

◇ひげ」カテゴリの記事

●コラム」カテゴリの記事

『アイドル愚考録 』」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/446045/8547100

この記事へのトラックバック一覧です: 安田美沙子とつげ義春( アイドル愚考録 ):

» 安田美沙子 [安田美沙子 画像動画 情報]
安田美沙子ちゃんは、「ミスマガジン2002」で「ミスヤングマガジン」に選ばれたグラビアアイドルです。現在は、グラビアのほかにテレビや映画、CMなど、多方面で活躍しています。安田美沙子プロフィール生年月日 1982年4月21日現年齢 25歳出身地 京都府宇治市血液型 O型身長161cmスリーサイズ B82(Dカップ) W60 H85cm靴のサイズ 24cm安田美沙子ちゃんはミスマガジン2002のときはミスヤングマガジンでしたが、ちなみにほかの受賞者も紹介します。ミスマガジン20...... [続きを読む]

受信: 2007年10月23日 (火) 14時59分

» 『 老人と子供 』 [カチハヤのシナリオ日記]
○ 踏み切り(朝)    遮断機が下り、警笛が鳴っている。    じっと待っている老人。    多くの人が遮断機をくぐって踏み切りを    渡っていく。 老人「あぶないですよ」    老人が遮断機をくぐろうとする会社員の    男に声を掛けた。 男「この..... [続きを読む]

受信: 2007年10月23日 (火) 21時04分

« NO.3 関俊彦 | トップページ | 疎外感 »