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2007年10月20日 (土)

実録・白い死神(または生きた死亡フラグ)

@1939年、冬戦争(ソビエトとフィンランド間の戦争)真っ最中のフィンランド領内。
とある冬の夜、コラー河を臨む森の中。
フィンランド領内に侵攻したソビエト軍の歩兵小隊が待機している。
焚き火を囲み、皆で寒さ凌ぎにウォッカを飲んでいる。
兵士A「畜生、フィンランド野郎どもめ。隠れてばかりいやがって」
兵士B「そうだそうだ、臆病者どもめ」
同意する兵士達。
小隊長「ここは奴らの土地だ。奴らを甘く見るな」
兵士A「小隊長、何をビビッてるんですか。奴ら単なる田舎者ですぜ?」
小隊長「お前は知らんのか、『白い死神』を」
兵士B「白い悪魔?何ですかそれは。御伽噺か何かで?」
小隊長「知らなければ教えてやる。ここらに『白い死神』と呼ばれる凄腕の敵狙撃手がいるらしい」
小隊長「話では、奴の潜む林の中に足を踏み入れた小隊が、1時間後には奴一人のために全滅したそうだ」
兵士A「またまた、冗談でしょ?」
小隊長「その小隊を率いていたのは俺だからな。確実な話だ」
静まり返る小隊。
小隊長「いや、冗談だ。そこに居たら俺は死んでた事になるじゃないか」
一瞬の後、爆笑する小隊。
兵士B「全く、小隊長は話が上手い」
小隊長「ま、その『白い死神』の噂も体の悪い作り話だろうさ。隊を全滅させた無能な指揮官とかのな」
兵士A、笑いながら立ち上がる。
兵士A「スイマセン、ちょっと用足しに」
兵士B「おい、『白い死神』に会ったらヨロシク言っておいてくれよ」
兵士A「ああ、デートにでも誘ってみるさ」
爆笑する小隊。

x         x         x
少し離れた木の根元。兵士Aが用足ししている。
兵士A「ふぅぅ、ちっと飲みすぎたか」
道具を仕舞ったその瞬間、銃声が響き渡る。
兵士A「ったく、何処の馬鹿だ。銃でも暴発させたか…」
しかし、銃声は散発的に続く。
兵士A「…て、敵か!」
銃を持ち直して、小隊に戻る兵士A。

@ソビエト軍小隊陣地
慌てて陣地に戻った兵士A。
兵士A「敵襲だ!…って、あれ…」
そこには先程と変わらない小隊の姿が。兵士A、元の席に戻る。
兵士A「なぁんだ、別の陣地か。でも念のために警戒しておきますか、小隊長?」
小隊長に向き直る兵士A。額に穴の開いた小隊長、無表情のままゆっくり崩れ落ちる。
兵士A「ひっ!お、お前ら小隊長が…」
と、小隊が皆雪の上に倒れている。
兵士A「し、白い…死神?」
何か得体の知れないプレッシャーを感じ、走りだす兵士A。
兵士A「そ、そうだ!後方には戦車が居るじゃないか。戦車砲で一掃してやる!」
やがて、兵士Aの前に一台の戦車が姿を現す。兵士A、戦車の砲塔によじ登る。
兵士A「お、おい!前方の森に狙撃手が…」
砲塔に上半身を出していた戦車長、何も言わずに倒れこむ。額には銃撃の跡が。
見れば、戦車の周辺には頭を射抜かれた戦車兵が倒れている。
兵士A「ひっ…ひぃいぃ!」
銃を投げ捨て、雪に脚をとられながらも森の奥に逃げ出す兵士A。

@少し離れた丘の上
森を見下ろす雪に覆われた丘。その頂上付近の雪の中から銃口が突き出している。
暫らく様子を伺っていたが、やがて雪を被ったシートの下から真っ白な防寒服を着た男が姿を現す。
小柄なその男は、シートについた雪を払い、身長ほどもあるライフルを背中にくくりつけた。
そして、シートの下に隠してあったスキーを装着すると、悠々と夜の森の闇に消えていった。

彼こそが冬戦争において「白い死神」と恐れられた男、シモ・ヘイヘ。
開戦から負傷までの僅か100日で、正式確認されただけで502人のソビエト兵を狙撃、さらにサブマシンガンでも200人以上を射殺することになる。
今夜はその100日の内の1日。死んだのは、そのスコアのほんの一部の人間に過ぎない。

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