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2007年12月 1日 (土)

実録・白い悪魔(完結編)

@1940年、冬戦争(ソビエトとフィンランド間の戦争)真っ最中のフィンランド領内。

フィンランド軍の後方陣地。

多くの新兵が射撃訓練に没頭している。

若い新人兵士A、上手く的を射抜けずに苛立っている。

兵士A「くそっ、また外した!」

呆れ顔の仲間の新人兵士B。

兵士B「駄目だな。お前は短機関銃持って敵陣に切り込めよ」

兵士A「黙れ。俺もシモ・ヘイヘやスロ・コルッカみたいな凄い狙撃兵になるんだ!」

兵士B「無理無理」

話しているAとBの後ろを通り過ぎる人影が。

愛用のモシン・ナガン狙撃銃を持ったシモ・ヘイヘその人。

兵士A「あ…」

兵士B「へ、ヘイヘ兵長…」

ヘイヘ、その二人の横にシートを敷いて寝転がり、銃を構える。

ヘイヘ「…標的までは150mかな?」

兵士A「は、はい、その通りです」

ヘイヘ「悪いが、観測手を頼めるかな」

兵士A「よ、喜んで!」

見ると、ヘイヘの狙撃銃には望遠スコープが装着されていない。

兵士B「ヘイヘ兵長、スコープはどうされました?」

ヘイヘ、意外そうな顔で兵士Bを振り向く。

ヘイヘ「…レンズに光が反射したら、位置を悟られるじゃないか」

絶句する兵士B。

(通常、遠距離からの狙撃にはは3~4倍率のスコープを使う。使わないと普通の兵士なんかでは殆ど狙いなんぞ付かないのである)

いつの間にかヘイヘの腕前を見ようと周りには人だかりが出来ている。

ヘイヘ「始める。1分だ」

兵士A「り、了解」

双眼鏡で標的を確認する兵士A。

ヘイヘのライフルが咆哮する。

兵士A「命中!」

ヘイヘは淡々と銃を発射し、廃莢し、狙いをつけ、また発射する。

兵士B「す、凄い…正に百発百中だ。しかも何て早さだ…」

ヘイへは普通の兵士の半分以下の時間で狙いを付けて発射し、標的に当てている。

異様な興奮に包まれる兵士達。

兵士A「残り10秒!」

兵士B「50秒で13個命中…神業だ…」

ヘイヘ、淡々と射撃を続ける。

兵士A「5、4…」

ヘイヘ、15個目の標的を打ち抜く。

兵士「2、1、0!」

0と同時に放たれた銃弾は、標的を僅かにそれ、後ろの土手に命中する。

あーっ、と声を上げる兵士。だが、すぐに感嘆の声に変わる。

*「なんてこった、1分で16発中15発命中、しかもすべてド真ん中に、だ!」

*「信じられない!」

賞賛の声にも表情を変えないヘイへは、一つ首をかしげる。

兵士A「どうしました?」

ヘイへ「…どうしたのかな。最後、標的を外すなんて…今日は駄目だな」

一同、言葉を失う。

ヘイヘ、まだ何かブツブツ言いながらシートを畳み、愛銃をひと払いして立ち上がる。

兵士A「へ、ヘイへ兵長」

ヘイへ「何か?」

兵士A「何か、狙撃にコツと言うか…秘訣はあるんですか」

ヘイへ「練習だ」

兵士A「れ、練習…」

ヘイへ「頑張ろう。共に祖国を守る為に」

敬礼するヘイヘ。

兵士A「は、ハッ!」

兵士A以下、その場の全員が敬礼を返す。

ヘイヘ、まだ首をかしげながら「調子が悪い…」と呟きながら立ち去る。

兵士A「よ、よーし、練習だ!」

兵士B「おう!」

…調子が悪い、というのは最もな話で。

その日、1940年3月6日にヘイヘはソヴィエト軍スナイパーの狙撃により、あごを撃ち抜かれるという重傷を負う。

友軍に救出されてかろうじて一命を取り留め、3月13日に意識を回復した。

が、冬戦争はその前日、モスクワでの講和条約締結を以て終戦を迎えていたのである。

終戦後、ヘイヘはグスタフ・マンネルヘイム元帥と面会し、コラー十字章を受勲、兵長から少尉へと5階級もの特進を果たした。

その後戦場に出ることは無く余生を過ごし、2002年に96歳でこの世を去った。

白い悪魔は意外に長生き。

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