ねじの回転 ( アイドル愚考録 )
綾瀬はるかの魅力は、子犬の持つ可愛らしさとよく似ている。
無防備で純朴。疑いなく、世界を信じきっているような澄んだ瞳。
少し地味だが、アイドルとしての雛形に近い存在であり、安定感がある。
それだけに、電車の中吊り広告で見た、綾瀬はるかの生茶のポスターは衝撃だった。
生茶を飲んだ直後という設定らしく、手で豪快に口元を拭った彼女は、「ぷはー」という満足げな声が聞こえてきそうな程、無防備に口を開けている。
その光景が今までの綾瀬はるかとは違い、やけに猥らなのだ。
猥らと言っても、エログロの方面( サドや乱歩など )ではなく、もっと現実的で、それゆえに生々しく、昼間の太陽に照らされたような明るい性である。
譬えるなら、フランスかイタリアの広大なブドウ畑で働く、若き村娘たちであろうか。
眉をひそめる大人などお構いなく、彼女らは甲高い嬌声を上げながら葡萄を収穫している。その時の話題は、自身の、もしくは友人たちの性に関するゴシップである。
頭の固い大人たちの目を盗み、ひそやかに行われた性の冒険譚が、笑い、好奇心、時には深刻さでもって語られるに違いない。
そして、桶の中の葡萄を、彼女らの若い足が踏むとき、その性的興奮はクライマックスを迎える。
足裏をくすぐる皮の感触。立ちのぼる葡萄の匂い。
くらくらと意識は落ち着かず、かるく酩酊した状態の彼女らの上げるあげる笑い声や悲鳴は、男女間の睦みごとに酷似しているに違いない。
このような、性の喜びを隠すことのない村娘の中に、綾瀬はるかの姿を想像して描き加えることは、決して難しくない仕事のはずだ。生茶のポスターを見た者であれば。
それにしても、これまで私が綾瀬はるかに抱いていた印象は、最初に挙げたようなものであり、それは彼女の評を安定させると同時に、先が見え、まったく退屈であり、コラムの対象とするに相応しくないと断ずる理由になっていたのだが、件のポスターのおかげであるものが発見できた。
それは『 捩れ 』だ。
彼女は、人の肉で作られた、一本の螺子である。
顔とそこから下の肉体が、右と左に異なった回転をしているのである。
無防備や純朴。これら冒頭で述べた彼女の印象は、注意深く観察すれば、すべて彼女の顔が与えているものだと分かる。その容貌は愛らしく、邪気なく、清潔である。
しかし、その肉体は一転して肉感的であり、官能的ですらある。
( 彼女の肉体性に疑惑を抱く者は、数年前のポカリスエットのCMを思い出すこと。そこでは彼女の肉体性を前面に押し出した演出がなされていた )
『 清潔 』と『 官能 』。
このアンヴィヴァレントなふたつが結びつくと、明るい、透明な肉慾という効果がうまれる。
それは倫理や社会通念に囚われない、フィクションではない、生の肉体から発せられる性の喜びであるのだ。
『 透明な肉慾 』というのは貴重な財産だと私は考える。
多くの視聴者( 性に未熟な子供や、倫理観の強い高齢者 )が目にする、テレビや映画などにおいて、露骨な性を感じさせることなく、それでも官能をアピールできる役者は稀有な存在だと思われるからだ。
私は、綾瀬はるかはコメディに向いていると思う。
底抜けにお人よしで涙もろく、男に騙されてばかりいるが、それでもまた恋愛に走ってしまう可愛い女。ビリーワイルダー風の、ロマンティックコメディーなら彼女の良さが引き立つと私は考える。
うまく行けば、綾瀬はるかはマリリン・モンローのような女優になれるのではないか。
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