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2008年12月

2008年12月30日 (火)

証明写真

○ 都心の小さな公園

   元気のないスーツ姿の舘野(50)がベ

   ンチで友人と話している。

友人「まだ奥さんに言ってないんだって?」

舘野「再就職が決まるまで話せんよ」


○ 駅前(夕方)


   たくさんの人たちと共に改札から出てく

   る舘野。

   証明写真機が目に留まり、近づいていく。

   証明写真機から若いサラリーマン(健二)

   が出てくる。

舘野「健二くん」

健二「お父さん」


   互いに気まずい表情をみせる二人。


○ 住宅街の道(夜)

   舘野と健二、歩いてくる。

   二人とも憑き物が落ちたように穏やかな

   表情。

舘野「今日は全部話せそうだ」

健二「僕もです」


   それぞれの住居用に2つのドアがある二

   世帯住宅。

舘野「ただいま」

健二「ただいま」


   舘野が左のドアに、健二が右のドアに入

   っていく。

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2008年12月23日 (火)

家庭訪問

○ オフィス

   佐藤(40)、静かに受話器を置く。

   隣席の同僚に言う。

佐藤「なぁ、俺、今日もう上がっていいかな」

     ×    ×    ×

   佐藤、鞄を手に退出していく。

   若手社員が佐藤の同僚に聞く。

若手社員「佐藤さんどうしたんです?」

同僚「家庭訪問なんだと」

若手「家庭訪問? それくらいで?(笑う)」

同僚「……」


   ドアを叩く音、イン。


○ 佐藤家・二階

   子供部屋のドアを叩く手――担任の若い

   男性教師。

担任「佐藤、先生だ。話をしよう。ここ開け

 てくれよ。なっ?」


   担任、中に呼びかけながらドアを叩き続

   ける。


○ 同・リビング

   二階からドアを叩く音が聞こえてくる。

   受話器を置いた姿勢のまま動かず立ち続

   けている佐藤の妻(36)。

   その目は思いつめたようにじっと虚空を

   凝視めている。

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2008年12月16日 (火)

アリストテレスの詩学について

この処、アイドル愚考録を書きあぐねている。近ごろ私の気に入るようなアイドルが出て来ないということもあるが、もうひとつの理由の方がより大きいと言える。

それはマンネリである。

このコラムは自分の好きなタイプのアイドルについて勝手気ままに筆を走らせているため、必然的に何度も同じアイドルに登場を願うことになる。最初の内はそれもいいが、二度三度と同じ対象が続くと、やがては語る言葉、思想も尽きてくるのが世の道理というもの。書いている最中に「あれ? これって前にも書いたような……」という事が幾度か続き、何だか出来の悪い複製品を作り続けているような、惨めな気分になってきた。

そこで暫らくこれを休止して他のコラムを書こうと思い立った。

では、何をコラムの題材とするべきか?

今まではかなり柔らかめの内容だったので、少しは歯ごたえのある方がよいだろう。そして出来れば読者の創作の一助となるような内容にしたい。

そんなことを考え、アリストテレスの「詩学」を題材にすることにした。

詩学を知らない人のために簡単に説明すると、古代ギリシャの偉大な哲人アリストテレスの芸術論をまとめたものであり、また作劇における優れたテクニック集でもある。随分と昔に書かれたものにも関わらず、その内容は現代にも通用する普遍性を持っている。

洋の東西を問わず、これまで多くの学者、芸術家たちが優れた解説書を出しており、今更私ごときが書く必要があるのか、という感じはあるが、しかしまあ書いてみようと思う。原典がこれだけ優れているのだから、質の悪い水で薄めたところで飲めないということはないだろう。

手始めに、まずは詩学がどんな内容の本なのかを説明したい。

この本は、優れた戯曲、優れた叙事詩とはどういう風に作られていなければならないかを、実際に演じられた劇の場面を引用することで分かりやすく解説したものだ。

(しかし、残念なことにアリストテレスが実例としてあげた劇の多くが現存しておらず、彼が意図したとおりの効果を産んでいない。皮肉なことに、それらの劇は詩学の記述でしか見ることができない)

アリストテレスのやり方はこうだ。

まずは全体(作品)をばらばらに解体する。そして、その小さなパーツ(ストーリー、台詞、キャラクターなど)ひとつひとつについて説明を加える。それぞれのパーツについて理解が深まったところで、もう一度それらを組み合わせて大きな全体(作品)を論評する。

アリストテレスはこの手法により、全ての優れた作品は解明されると考えていた。なぜなら彼の考える最上の芸術作とは、それらのパーツがきっちり納まるべき所に納まっている作品のことだからだ。

アリストテレスの言葉を借りれば、「その全き行動を形作るところの数個の要素は、極めて、密接な関係に融合され、要素のどれ一つでも所を変え、もしくは引き抜かれたならば、全体は支離滅裂するように組み立てられねばならぬ」のである。

すごい鼻息である。ここまではっきり宣言されると、もう少し砕けた、落語の小話のようなストーリーも私は大好きなのですが、と異議申し立てをしたくなるところだが、相手はすでに故人であるし、生きた時代も違う。まあ、こういう考え方もあるよな、と妥協するしかない。

すごい鼻息で思い出したが、詩論を読んで最初に感じたのは「これはギリシャ版枕草子である」ということだ。

アリストテレスはこの本の中で、「あらゆる劇の中で最高なのは悲劇だ! それも複雑なストーリーを持ったものでなければならない。つまりオイディプス王だ!」と声高に主張するのである。彼の好みに合わない劇はこき下ろされ、当時とても人気のあった「オデュセイア」も「あんなものは客のレベルが低いから流行ってるだけだ!」とまで言ってのける。想像するにこの先生、この後、かなりの数の劇作家たちを敵に回したのではないだろうか。

しかも、師匠にあたるプラトンは芸術否定論者(全ての芸術がというわけではない。彼が攻撃したのは悲劇や喜劇である。女々しい行動や強欲な人々を書くのは道徳上よろしくないから、という理由らしい)である。弟子であるアリストテレスが「芸術万歳!」という内容の本を出すのはかなり勇気がいったのではないだろうか。

話が脱線し、当初の予定より長くなってしまった。あまり長いコラムは私の好むところではないので、この話の続きはまた次回ということにして、今回はここらで筆をおきたいと思う。

次回は、アリストテレスの考えた芸術の要素について触れてみたい。

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いろいろあった

○ マンションの一室・リビング(夜)

   夫(36)と妻(37)がコタツに入っ

   ている。

   窓の向こうには雪がちらほら。

妻「今年も終わりね」

夫「いろんなことがあった一年だったな」

妻「あなたと結婚して、この子を授かって(と

 大きくなったお腹をさする)」

夫「来年もいい年にしような」


   微笑みあう二人。

妻「二人ともこっちいらっしゃい。年越し蕎

 麦食べるわよ」


○ 同・子供部屋


   二段ベッドの上段で寝転がっていた妹(10)

   が勢い良く起き上がる。

姉「いろいろあったわよね」

   と下段で雑誌を読んでいる姉(10)が

   言った。

妹「一年前は、私らただのクラスメイトだっ

 たのにね」

姉「それが今じゃこうして二段ベッドの上と

 下だもん。激動の一年よね」

妹「ホントよね」

姉「まぁ、何はともあれ、来年もよろしく頼

 むわ、妹よ」

妹「こちらこそだよ、お姉ちゃん」


   姉と妹、顔を見合わせて笑う。

妻の声「二人ともー」

姉&妹「いまいくー」

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2008年12月 9日 (火)

棘(とげ)

○ 郊外の家・広い庭

   数十本のバラが咲いている花壇。

姉(24)(電話の声)「駄目」

妹(17)「!」


   指先の一点に真っ赤な血が滲む。

   花壇の前に屈んでケータイで話をしてい

   る妹。怪我をした指をくわえる。

妹「なに?」

姉「今、触ろうとしたでしょ」

妹「なにが?」

姉「ト・ゲ。あんた、昔から、危ないってい

 うと逆にやりたがるじゃない」

妹「失礼な。もうそんな馬鹿しないわよ」

姉「そっ。じゃあ、来週帰るからバラくれぐ

 れも枯らさないようにね」

妹「もぉ、子供じゃないんだから、いちいち

 うるさい。切るよ(ケータイを切る)」


   再び血の滲んだ指をくわえる。

妹「来週か……(と微笑んだ後、家に向かっ

 て)おかーさーん、絆創膏―!」

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2008年12月 2日 (火)

風と便箋

○ 山間の寒村

   少年が線路の上を歩いている。

   風で飛んできた紙切れが足に纏わりつく。

   手に取る――便箋だ。

   もう一枚、飛んできた便箋を掴む。

   前方にある無人駅のホームで女が手紙を

   読んでいる。足元には大きなバッグ。

   手許から一枚、また一枚(最後)と風に

   飛ばされるが、女は何もしない。

   少年、それらを皆拾い、ホームに駆け上

   がると笑顔で女に差し出す。

   ホームに一両だけの電車が入ってくる。

   女、物憂げな目でじっと少年を見詰める。

運転手「乗らないのかい?」

   女、バッグを持って電車に乗り込む。

   少年は声を掛けようとするが電車のドア

   は閉まってしまう。

   走り出す電車――やがて見えなくなる。

   少年、チェッと便箋を放って走り去る。

   便箋が風に乗って飛んでいく。

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