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2008年12月16日 (火)

アリストテレスの詩学について

この処、アイドル愚考録を書きあぐねている。近ごろ私の気に入るようなアイドルが出て来ないということもあるが、もうひとつの理由の方がより大きいと言える。

それはマンネリである。

このコラムは自分の好きなタイプのアイドルについて勝手気ままに筆を走らせているため、必然的に何度も同じアイドルに登場を願うことになる。最初の内はそれもいいが、二度三度と同じ対象が続くと、やがては語る言葉、思想も尽きてくるのが世の道理というもの。書いている最中に「あれ? これって前にも書いたような……」という事が幾度か続き、何だか出来の悪い複製品を作り続けているような、惨めな気分になってきた。

そこで暫らくこれを休止して他のコラムを書こうと思い立った。

では、何をコラムの題材とするべきか?

今まではかなり柔らかめの内容だったので、少しは歯ごたえのある方がよいだろう。そして出来れば読者の創作の一助となるような内容にしたい。

そんなことを考え、アリストテレスの「詩学」を題材にすることにした。

詩学を知らない人のために簡単に説明すると、古代ギリシャの偉大な哲人アリストテレスの芸術論をまとめたものであり、また作劇における優れたテクニック集でもある。随分と昔に書かれたものにも関わらず、その内容は現代にも通用する普遍性を持っている。

洋の東西を問わず、これまで多くの学者、芸術家たちが優れた解説書を出しており、今更私ごときが書く必要があるのか、という感じはあるが、しかしまあ書いてみようと思う。原典がこれだけ優れているのだから、質の悪い水で薄めたところで飲めないということはないだろう。

手始めに、まずは詩学がどんな内容の本なのかを説明したい。

この本は、優れた戯曲、優れた叙事詩とはどういう風に作られていなければならないかを、実際に演じられた劇の場面を引用することで分かりやすく解説したものだ。

(しかし、残念なことにアリストテレスが実例としてあげた劇の多くが現存しておらず、彼が意図したとおりの効果を産んでいない。皮肉なことに、それらの劇は詩学の記述でしか見ることができない)

アリストテレスのやり方はこうだ。

まずは全体(作品)をばらばらに解体する。そして、その小さなパーツ(ストーリー、台詞、キャラクターなど)ひとつひとつについて説明を加える。それぞれのパーツについて理解が深まったところで、もう一度それらを組み合わせて大きな全体(作品)を論評する。

アリストテレスはこの手法により、全ての優れた作品は解明されると考えていた。なぜなら彼の考える最上の芸術作とは、それらのパーツがきっちり納まるべき所に納まっている作品のことだからだ。

アリストテレスの言葉を借りれば、「その全き行動を形作るところの数個の要素は、極めて、密接な関係に融合され、要素のどれ一つでも所を変え、もしくは引き抜かれたならば、全体は支離滅裂するように組み立てられねばならぬ」のである。

すごい鼻息である。ここまではっきり宣言されると、もう少し砕けた、落語の小話のようなストーリーも私は大好きなのですが、と異議申し立てをしたくなるところだが、相手はすでに故人であるし、生きた時代も違う。まあ、こういう考え方もあるよな、と妥協するしかない。

すごい鼻息で思い出したが、詩論を読んで最初に感じたのは「これはギリシャ版枕草子である」ということだ。

アリストテレスはこの本の中で、「あらゆる劇の中で最高なのは悲劇だ! それも複雑なストーリーを持ったものでなければならない。つまりオイディプス王だ!」と声高に主張するのである。彼の好みに合わない劇はこき下ろされ、当時とても人気のあった「オデュセイア」も「あんなものは客のレベルが低いから流行ってるだけだ!」とまで言ってのける。想像するにこの先生、この後、かなりの数の劇作家たちを敵に回したのではないだろうか。

しかも、師匠にあたるプラトンは芸術否定論者(全ての芸術がというわけではない。彼が攻撃したのは悲劇や喜劇である。女々しい行動や強欲な人々を書くのは道徳上よろしくないから、という理由らしい)である。弟子であるアリストテレスが「芸術万歳!」という内容の本を出すのはかなり勇気がいったのではないだろうか。

話が脱線し、当初の予定より長くなってしまった。あまり長いコラムは私の好むところではないので、この話の続きはまた次回ということにして、今回はここらで筆をおきたいと思う。

次回は、アリストテレスの考えた芸術の要素について触れてみたい。

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