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2009年6月

2009年6月30日 (火)

椿

○ 郊外の一戸建て・居間

   トントンと包丁の音が聞こえる。

   窓ガラスの向こうの小さな庭に女性の背

   丈ほどの椿の木。


○ 台所

   昼食の支度。鼻歌交じりに包丁を使って

   いる妻(35)。

   隣室から物音。

妻「?」


○ 居間


   包丁を持ったまま来る妻。

   テーブルの上でケータイが振動している。


○ 玄関

   スーツ姿の夫(39)が早足で上がる。


○ 居間

   夫、テーブルの上のケータイを見つけ、

   手に取る。

夫「おい、電話こなかったか」

妻の声「来ないわよ。ぜーんぜん」


   夫、出て行こうとして何かを見つける。

   じっと目を凝らして「ひゃあ!」と情け

   ない悲鳴を上げ腰を抜かす。

   椿の木に光る物あり。幹に包丁が突き刺

   さっている。

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2009年6月23日 (火)

赤い染み

○ ××マンション・駐車場

   何かが勢いよく飛んできて地面に赤い染

   みをつける。

   染みはすでにいくつもある。

   四階のベランダで少年(8)がプランタ

   ーのプチトマトを枝から採っては投げ、

   採っては投げしている。

   染みの所を横切ろうとしたスーツ姿の女

   子大生(21)の足元でプチトマトが炸

   裂する。

   女子大生、服についていないか慌てて確

   認してから顔を上げ、少年に気づく。

   少年、謝りもせず沈んだ目で平然と彼女

   を見ている。

   女子大生、少年をギッと睨み付け、マン

   ションの中へと入っていく。


○ 同・四階

   エレベーターのドアが開くや否や憤懣や

   るかたない様子で出てきた女子大生は、

   早足で部屋番号を確認して歩き、とある

   部屋のチャイムを鳴らす。

   なかなか返事がないので怒りに任せて何

   度も鳴らす。

   髪の乱れたバスローブ姿の女性(35)

   がドアを開く。

女性「なに?」

   女子大生が口を開きかけたとき、女性の

   背後にパンツを穿いただけの若い男性(24)

   が姿を現す。

   ベランダの少年の姿、フラッシュバック。

女子大生「すいません、間違えました」

   女性、ドアを閉める。

   女子大生、歩いていきエレベーターのボ

   タンを押すも、無性に心が泡立つのを感

   じボタンを力任せに連打してしまう。

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2009年6月16日 (火)

踏み台

○ ホームセンター

   店員がふと目を留める。

   買い物帰りの主婦(55)が脚立・踏み

   台の売り場で商品を見ている。

店員「どんなものをお探しですか?」

主婦「亭主に先立たれて以来、息子と二人で

 暮らしてきたんですけど、その息子が今度

 結婚するのよ」

店員「それはおめでとうございます」


   と満面の笑みで言う店員。

   対して淡々としている主婦。あまり嬉し

   そうでない。

主婦「今まで男仕事は全部息子に頼んでいた

 んですけど、今時のお嫁さんは親と同居な

 んてしたがらないでしょ」

店員「はぁ」

主婦「だから、電球の交換くらい自分ででき

 るようにならなきゃいけないと思って」


   遠い目をする主婦。

   店員、言葉に詰まってしまう。

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2009年6月 9日 (火)

憧れ

○ 木村家・玄関(朝)

   高校生の木村聡、階段を駆け下りてきて

   大急ぎで靴を履き出て行きかける。

母(声)「さとし!」

   母、台所から弁当を手に小走りで。

母「忘れ物」

聡「俺、一度でいいから食ってみたいんだよ

 ね、学食」


   母、ムッとして弁当で頭をゴツン。


○ 高校・教室(昼休み)

   チャイムが鳴っている。

   聡、ため息交じりに鞄から弁当を出す。

   浩平、後ろから聡の肩をたたく。

浩平「取り引きしようぜ」


○ 同・学食


   聡と浩平。聡は定食、浩平は聡の弁当を

   食べている。

   嬉々として食べる浩平を不思議そうに見

   ている聡。

浩平「一度食ってみたかったんだよなぁ、こ

 ういう家庭の味」

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2009年6月 2日 (火)

紫陽花

○ 井沢家・庭

   郊外にある二階建ての和風建築で広い庭

   がある。世帯主同様、だいぶ年をとった

   建物。

   鉛色の空の下、片隅に咲いた紫陽花を花

   ばさみで切っている井沢よし(65)、傍

   らに敷いた新聞紙の上に置いていく。

陽子(声)「売りたくないっていうのよ」


○ 滝田家・居間


   滝田陽子(45)、井沢良美(39)。

陽子「一人で住むには広すぎるし、第一無用

 心でしょ。ウチで一緒に暮らそうって再三

 再四言ってるんだけど」

良美「まだお父さんのこと忘れられないのか

 しら」

陽子「忘れられないって、蒸発したの二十年

 以上前よ。一緒に暮らしているときだって

 女ぐせ悪くて散々母さんのこと困らせたじ

 ゃない」

良美「でもわからないじゃない、夫婦の間の

 ことって」

陽子「まぁね」


○ 井沢家・庭

陽子(声)「今頃どこでどうしてるのかしらね、

 お父さん」


   ポツポツと雨が落ち始める。

   紫陽花の横にある子供の頭くらいの石に

   切った紫陽花の花を供え、そこにじっと

   手を合わせているよし。

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