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2010年1月

2010年1月26日 (火)

おなら

〇 病室

   臨終間際の痩せ細った老女。

   横に老女の娘と息子(共に中年)、医者と

   看護婦、少し下がって老女の夫。

   心配そうな娘と息子。

   無表情な夫。

   老女の頭がガクッと傾き、動きが止まる。

娘「お母さん」

息子「おふくろ」


   医者、脈を計る。

   凍りつく、娘と息子。

   無表情なままの夫。

   張り詰めた沈黙を破るようにプウッと小

   さなおならの音。

   老女の口許がわずかに動く。

   一瞬唖然となった後、思わず噴き出して

   しまう娘と息子。

娘「もう、お母さんたら」

息子「そういえば俺たちが小さい頃からよく

 プッププップしてたよな」


   笑いあう二人。

夫「(ぽつりと)そういえば」

   娘、息子。

夫「初めて聞いたな、母さんのオナラ」

   二人の笑いは自然と静まる。

   夫はやはり無表情のまま。

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2010年1月19日 (火)

ビンの中身は

〇 公園

   子供たちが元気に思い思いの遊びに興じ

   ている。

   寂しそうにベンチに座っている男の子A。

   足許にサッカーボールが転がってくる。

   拾い上げようと手を伸ばすも別の手(男

   の子B)がそれを浚っていってしまう。

   男の子Bは男の子Aのことなど初めから

   気にしていない様子で遊びに戻っていく。

   しょんぼりする男の子A。

   不意に横から一升瓶が差し出される。

   見上げて、ギョッとする。

   顔中髭だらけの年老いたホームレスがじ

   っと睨みつけている。

   たじろぐ男の子A。

   さらに一升瓶を突き出すホームレス。

   怖くなって思わず受け取ってしまった男

   の子A、ふと何かに気づく。

   一升瓶の中を見る。

   太陽に翳して再度目を凝らす。

   遊んでいた子供たちが何事かと次々に集

   まってくる。

子供たち一同「あっ!」

   一升瓶の中の液体に出目金が一匹、気持

   ちよさそうに泳いでいる。

   「金魚だ!」「泳いでる!」などと口々に

   歓声を上げる子供たち。

   ふとホームレスを振り返る男の子A。

   辺りに彼の姿はない。

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2010年1月12日 (火)

寝ている間に

〇 ワンルームアパートの一室

   日捲りカレンダーの日付は12月25日。

   だらしなく雑誌や服が散らかっている。

   静まり返った室内にトイレの排水音。

   トイレから出てくる青年(21)。腹をさ

   すりながら。スウェットの上下にどてら

   を羽織り、髪は寝癖だらけ。

青年「変なものでも食ったかな」

   テレビをつけ、何とはなしにチャンネル

   を次から次へと変えていく。

   どれもこれも正月番組ばかり。

青年「あれ? なんで……あっ!」

   跳ねるように立ち上がると流し横のゴミ

   箱を開け、漁り始める。

青年「あった」

   拾い上げたのはヨーグルトの容器。

   「賞味期限 12月24日」の表記。

青年「年明けてたのか」

   ギュルギュルと鳴り出すお腹。

   トイレに駆け込んでいく青年。

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2010年1月 5日 (火)

少年野球

〇 土手

   手の中で数個の小石を弄んでいる男A。

   土手に腰掛けて河川敷で行われている少

   年野球の試合を眺めている。

男B「何点です?」

   斜め後ろに立っていた男Bが話しかけた。

   男A、顎で足元を示す。

   小石を得点数分置くことで即席のスコア

   ボードにしている。

   男B、フッと微笑み隣に腰掛ける。

男B「ウチのもちょうどあのくらいなんです

 よ。おたく、ご家族は?」

男A「いませんよ、三年前から」

男B「別れたんですか?」

男A「いや、事故でね」

男B「何だか、余計なことを聞いちゃったみ

 たいで」


   と立ち上がり、立ち去ろうとする。

   男A、バッターボックスの少年を指す。

男B「?」

男A「ひき殺されたんですよ、あの子の父親に」


   言葉を失い、立ち尽くす男B。

   金属音を響かせ、少年がヒットを打つ。

   男A、手の中の小石を一つ、親指でスコ

   アボードへと弾く。

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