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2010年2月26日 (金)

映画レビュー 『 謎のストレンジャー 』

『 謎のストレンジャー 』(原題 The Stranger)
  監督・出演 オーソン・ウェルズ
  出演 エドワード・G・ロビンソン
      ビリー・ハウス
      ロレッタ・ヤング
      フィリップ・メリヴェイル ほか

 渋谷の シネマヴェーラ でオーソン・ウェルズの 『 謎のストレンジャー 』 を見てきました。

 オーソン・ウェルズ関連では、これまで『市民ケーン』(監督・出演)や『第三の男』(出演)を見たことがありますが、どちらも随分前のことであまりよく覚えていません。

 そういうわけであまり期待せずに見に行ったのですが、これが大正解でした。

 映画の素晴らしさが詰まった一作です。

 この作品でオーソン・ウェルズが演じているのはナチスの残党・キンドラ。

 戦犯聴聞会はユダヤ人収容所の所長だったマイネックを泳がせ、キンドラの行方を突き止めようとします。

 物語はキンドラと彼の正体を暴こうとする戦犯聴聞会の調査員の心理戦を中心に描かれています。

 ただ、ストーリーそのものには特に目新しいところはなく、びっくりするようなどんでん返しもありません。

 ではどこが特筆に価するのかというと、ひとつは“強固な構成”、もうひとつはまさに“映画ならではのこと”です。

 “強固な構成”(プロット)は、いざシナリオ執筆となった際、シナリオライターに自由を与えてくれます。

 シーン毎の必要な要素が明確になっていれば登場人物の微妙な心の動きやセリフに集中できますし、ときには思い切った路線変更すら可能になります。

 映画の中で、夜、別名で名門校の高校教師に成りすましたキンドラが昼間に殺した男の死体を埋めた場所を犬の散歩にかこつけて確認に行く場面があるのですが、それと、宿で寝ようとしていた聴聞会の調査員が高校教師の昼間の発言から彼がキンドラに違いないと気づく場面が、カットバックで相互に描かれます。

 そしてその後、帰宅した高校教師は、昼間の品のある穏やかな態度とは打って変わり、犬(死体を埋めた場所を掘ろうとした)をしつけと称して地下室に閉じ込めます。

 この一連の流れから、その後徐々に正体をあらわにしていく高校教師の印象の変化を描くのは、全体を通した構成なくしては不可能なのです。

 もうひとつのポイント“映画ならではのこと”というのは、シーンとシーンの化学反応から生まれてくる、物語のふくらみのことです。

 これは観客の想像力を喚起させるスイッチのようなものと言い換えてもいいかもしれません。

 映画は映像で表現するもの、というのはよく言われることですが、映画はシーンです。

 ひとつひとつのシーンと、それらシーンのつながりから、描かれていない部分を観客に想起させ、わずか100分程度でひとつの世界を伝える。

 個々のシーンとその連携からくる化学反応が効果的に作用しているかどうかが一番重要なのであって、それができていれば極端な話、テーマや思想はあってもなくてもいいのです。

 この作品はそういった“映画とはそもそも何なのか”を思い出させてくれる良作です。

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