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2010年3月 9日 (火)

コウモリの仔

 ラジオドラマのシナリオを書いてみました。

 長さは原稿用紙8枚。

 いつも書いているシナリオ(400字程度)よりは長めです。

 ラジオドラマのシナリオはあまり馴染みのないものだと思いますが、音を想像しながら読むのはなかなか楽しいと思います。

 むしろ映像用のシナリオよりも読みやすいと思いますので、ぜひ一度読んでみてください。  

     ×     ×     ×

拓のN「新しい友達ができた」

   ザザッと土手を滑り下りる。

翔「拓ちゃん、どこいくんだよ?」

拓「シー。翔くん、こっちこっち」

拓のN「橋の根元。クモの巣が張っていて、

 コンクリートは昼間でも冷たい」

翔「なに?、いいものって」

拓「(小声で)ほら」


   段ボールを開ける。

   キーキーという鳴き声。

翔「(真似して小声で)なにこれ」

拓「コウモリだよ」

翔「ホントにコウモリ?」

拓「まだ赤ちゃんだけどね」

翔「どうしたの? 飛ぶの?」

拓「拾ったんだ。怪我してるみたい」

翔「へぇ」

拓「触る?」

翔「(怖がって)いいよぉ」

拓「大丈夫だよ、ほら」


   キーキーという鳴き声。

拓「ね?」

翔「あったかい。あと、思ったより重くて、

 手にしっくりくる。拓ちゃん、こいつ、吸

 うのかな」

拓「吸うって?」

翔「血」

拓「吸わないんじゃない? まだ子供だし。

 ねぇ、翔くん、こいつ二人で育てない?」

翔「育てる、育てる!」

拓「約束だよ」

翔「うん。絶対だ」



タイトル『コウモリの仔』


拓のN「少し前、社会見学のための、バスの

 席決めがあった」


   生徒たちのざわめき。

拓のN「二人一組になるよう言われた。皆が

 ペアを作っていく中、僕は独り、座ったま

 まぼんやりと窓の外を眺めていた」


   先生が手を二回叩き、ざわめきが静まる。

拓のN「終了の合図。僕は前を向いた。ペア

 になれなかったのは僕ともう一人だけ。そ

 れは意外にも翔くんだった」



   生徒たちの談笑。

拓のN「翔くんはクラスのアイドル的存在で

 いつもたくさんの友達に囲まれていた。友

 達の少ない僕とはまるで正反対。僕は仲良

 くなれたことが単純に嬉しかった」


翔「あ、飲んだ」


   キーキーという鳴き声。

拓のN「僕らは交代で給食の牛乳を残し、ス

 トローをスポイト代わりにしてコウモリに

 飲ませた」

翔「最初はちょっと気持ち悪かったけど、だ

 んだんかわいくなってきた」

拓のN「これは僕ら二人の秘密だった」

翔「俺、こいつにならやってもいいな」

拓「やるって何を」

翔「血だよ、血。大きくなって吸うようにな

 ったらやってもいいな」

拓「嘘だぁ」

翔「嘘じゃないよ」

拓「じゃあ、僕もやる。だって、こいつを最

 初に見つけたの、僕だもの」

拓のN「僕らはコウモリに名前をつけようと

 しなかった。それはこいつをペットとは違

 う、何か特別な存在だと信じていたから」



   数人の話し声。

翔「あ、拓ちゃん」

拓のN「遅れてやってきた僕を振り返ったの

 は、翔くんと数人のクラスメイトだった」

翔「皆にも見せてやろうと思ってさ。早く」

拓のN「手招きする翔くんの周りで彼らが僕

 を、部外者を見るような目で見た」

拓「僕、今日、用があるから」


   土手を駆け上がる。

翔「拓ちゃん?」

   走る拓。涙ぐみ鼻をすする。

拓「裏切り者。あんな奴、友達じゃないや」


拓のN「そして翌日、コウモリが消えた」


拓「盗んだだろ」

翔「なんだよ」

拓「しらばっくれるな。今日、学校に来る前

 に行ったらいなかった」

翔「知らないよ」

拓「知らないわけないだろ。秘密だったコウ

 モリのことだって皆にバラして」

翔「友達が増えたら喜ぶと思って連れて行っ

 たんだ。何で怒ってるんだよ」

拓「盗むから怒るんだろ」

翔「だから盗んでないって言ってるだろ。だ

 いたい自分はどうなんだよ。一人でこっそ

 り行ったりして。自分が盗ったんだろ」

拓「僕が盗るわけない」

翔「嘘だね。嘘つき、嘘つき」

拓「嘘はそっちだろ」


   椅子や机が倒れる。

   取っ組み合いになる二人。

   やがて大きな音を立て窓ガラスが割れる。


拓のN「僕らは職員室に呼ばれた。喧嘩の理

 由をしつこく聞かれたが、二人ともずっと

 口をつぐんでいた」


拓のN「その夜のことだった」


   電話のベルが鳴り、受話器を取る。

拓「もしもし」

翔(電話)「(泣きながら)拓ちゃん」

拓「なに? どうした?」

翔「いなくなっちゃた」


拓のN「僕は大急ぎで自転車に飛び乗った」



   激しい雨の中、自転車の急ブレーキ。

拓「翔くん」

翔「(涙を堪えつつ)部屋に隠しておいたん

 だけど、掃除のときお母さんに見つかって。

 それで、捨てたって」

拓「どこに?」

翔「わかんない」

拓「探そう。乗って」

拓のN「僕らは濡れるのも構わず走った」


   激しい雨の中、風を切って走りながら、

拓「誰か一緒に探してくれる人呼ぼうか」

翔「来ないよ、雨降ってるし」

拓「でも、翔くん友達いっぱいいるし」

翔「そうだけど皆一番仲いいのは俺じゃない

 から」


   先生が手を二回叩く。

拓のN「あの席決めのときのことが浮かんだ」

   微かに聞こえるキーキーという鳴き声。

拓「あ」

   自転車ごと土手を転がり落ちる二人。

   二人、起き上がりながら、

拓「今……」

翔「うん」

拓「聞こえたよね」

翔「聞こえた」

拓「キーキーって」

翔「うん」

拓「やった! 見つけた!」

翔「空の方から聞こえたよね?」

拓「治って、飛べるようになったんだ」


   興奮して弾む二人の息。

翔「行っちゃったんだな」

拓「仕様がないよ、大人になったんだから」

翔「いてぇ、血ぃ出てる」

拓「僕も。あいつなら嘗めたかな」


   二人、嘗める。

拓&翔「(二人同時に)まじぃ」

   笑いあう二人。その声は徐々に雨音の中

   へと消えていき、最後にどこからともな

   くコウモリの羽ばたきが聞こえる。

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