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2016年7月

2016年7月28日 (木)

眠れぬ夜に

目次

眠れぬ夜に 1

眠れぬ夜に 2

眠れぬ夜に 3

眠れぬ夜に 4

眠れぬ夜に 5

眠れぬ夜に Fin

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眠れぬ夜に 1

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眠れない。

小学生になって一人で眠ることには慣れたけど、

それでもたまに寂しくて眠れなくなっちゃう。

お父さんもお母さんもお仕事で忙しくって、

ふたりとも夜いないことが多いんだ。

誰もいないおうちは静かで心細くて、

ますます眠れなくなっちゃう。

でも大丈夫。

こんな時、強い味方がいるんだ。

眠りの国からやってくる眠りの王様、ねむねむさまだ。

 
「ねむねむさま、ねむねむさま。どうかおいで下さい」

 
心の中でこう3回となえると、ほらほらやってきた。

ちっちゃいくせにいばってるのがおかしくて、

ついつい笑っちゃいそうになっちゃう。

まちがってもねむねむさまに「ちび」とか言っちゃだめ。

ねむねむさまはちっちゃいことを気にしてるから。

ねむねむさまの機嫌をそこねないように、

いつも笑いをこらえるのが大変だ。

 
「ねむねむさまおねがい、ぼくを眠らせて」

 
そう言うとねむねむさまは、

やれやれしょうがないな、

って顔をして、いつももったいつけるんだ。

まったく、ちっちゃいくせに、

態度だけは大きいんだから。

そしてねむねむさまは手に持ったステッキを

ぼくに向け,ぼくの周りをゆっくり回りだす。

1周。

2周。

3周……。

1周回るごとに意識は遠のいて、

ぼくは眠りの世界へと旅立っていく。

朝、目を覚ますとねむねむさまはもういない。

 
「ねむねむさまありがとうございました」

 
心の中でお礼をするのを忘れずに。

お礼をするのを忘れると、

ねむねむさまはへそを曲げてしまうから。

ねむねむさまってこどもみたいだよね。

こうして眠れない夜、

助けてくれるねむねむさまだけど、

あてにならないこともよくあるから困っちゃう。

 

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眠れぬ夜に 2

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ぼくが初めて小学校に行く前の夜。

胸がドキドキしちゃって眠れなかったんだ。

だからねむねむさまにお願いしたんだけど、

ねむねむさまもドキドキしちゃってドキドキしちゃって、

部屋の隅で縮こまっちゃってる。

いくら呼んでもお願いしても、

ねむねむさまはびくびくしながら、

ぼくの方をチラチラ見るばかり。

いつまでたっても自慢のステッキを使ってくれないから、

ぼくは夜中まで眠れなかったんだ。

 

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眠れぬ夜に 3

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そうかと思うと逆の時もある。

クリスマス・イブの夜。

サンタさんに会いたくて、

ベッドの中で眠らないようにがんばっていたのに、

呼びもしないのに鼻歌を歌いながら

ねむねむさまがやってきた。

「きょうはいいからお帰り下さい」

けれどねむねむさまはおかまいなし。

ツンととがったおひげを指でつまんでなでている。

機嫌がいい時、ねむねむさまは

決まっておひげをさわるんだ。

そしてびしっとぼくにステッキを向ける。

なにをきどってるのさ。

大事な時にはびくびくしてるくせに。

おかげでぼくは一度もサンタさんに会ったことがない。

ねむねむさまの気まぐれにはつきあいきれないよ。

 

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眠れぬ夜に 4

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それから、こんなこともあった。

運動会があった日の夜。

お父さんもお母さんも来れなかったけど、

ぼくは一生懸命がんばって、

かけっこで一等賞になったんだ。

ぼくはとってもうれしくて、

お父さんやお母さんに話したくて、

テレビを見ながら帰ってくるのを待っていたの。

そうしたら突然ねむねむさまが走って来て、

ぼくにぶつかってきた。

「きょうはいいんだってば!」

びっくりしたけれど、眠らされるわけにはいかない。

だけどこの日のねむねむさまはちょっとちがっていた。

ふんふん、ふんふん、とすごく鼻息が荒い。

なんだかとっても興奮してるみたいだ。

ごろごろころげまわったり、

だしだしとじだんだを踏んだり、

めちゃめちゃにあばれまわってる。

「どうしたの、ねむねむさま?」

ぼくは心配になって話しかけるけれど、

ねむねむさまは聞いちゃいない。

そしてステッキをぶんぶん振り回しながら、

またぼくにぶつかってきた。

気づいたらぼくはベッドの中だった。

あの日のねむねむさまはなんだったんだろう。

ねむねむさまって時々よくわからない。

 

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眠れぬ夜に 5

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そんなねむねむさまだけど、ぼくは大好き。

寂しい時はいつもきてくれるし、そばにいてくれた。

だから、お別れを言いに来た時はとってもびっくりした。

ねむねむさまはいつまでも

ずっとずっといっしょにいてくれると思ってたから。

お別れのダンスを踊って見せるねむねむさま。

ぼくはびっくりし過ぎて、

ぼんやりとお別れのダンスをながめている。

なんだかいろんなことが浮かんできた。

ねむねむさまとけんかしたことあったよね。

ふたりしてそっぽ向き合ってたけど、

本当はぼくもねむねむさまも

仲直りしたくてしょうがなかったんだよね。

お母さんに隠れてチョコレート

食べたこともあったよね。

夜に食べるとおこられちゃうからこっそりと。

ねむねむさまったら口のまわりを

チョコだらけにしちゃってさ。

ちっちゃなこどもみたいで、おかしかったな。

ぼくがお父さんにおこられて泣いているとき、

何も言わずそばにいてくれたね。

ちょこんとぼくのとなりにすわってさ。

ちっちゃな手でぼくの背中をなでてくれた。

ぼくはなんだかよけい泣いちゃったんだ。

うれしいのに涙が出てくるなんてへんだよね。

いつもいっしょだったね。

いっしょに笑ったね。

いっしょにおこったね。

いっしょに泣いたね。

いっしょに……いっしょに……。

ねむねむさまはお別れのダンスを踊りながら、

ぼくの前を行ったり来たりまわったりしてる。

いやだよ。

ぼくそんなの見たくないよ。

なんでいなくなっちゃうんだよ。

いつまでもいっしょにいてよ、ねむねむさま。

だけどねむねむさまは、

最後にぺこりとおじぎをして消えてしまった。

笑顔で手をふりながら消えてしまった。

まってよ。

ぼくをひとりぼっちにしないでよ。

 

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眠れぬ夜に Fin

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でもその心配はいらなかった。

これからはお母さんがいつもおうちにいるから。

お母さんのおなかの中にはぼくの兄弟がいる。

ぼく、お兄ちゃんになるんだ。

もうひとりぼっちになることはない。

それにぼく、わかったんだ。

お母さんの大きなおなかに顔をくっつけて、

こっそり言ってみる。

「ちび」

すると、おこったようにぼくをけってくるんだ。

まだ生まれてもいないのになまいきだな。

これからはぼくの弟か妹になる。

いつまでもいつまでもいっしょだね。

早くまた会いたいよ、ねむねむさま。

 

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2016年7月21日 (木)

勝者

◯繁華街の路地(夜)

 
  若者数人が口々に罵声を浴びせかけながら

  浮浪者を殴る蹴るしている。

  抵抗ひとつせず、されるがままにしている

  男の浮浪者。

  浮浪者は初老のようにも見えるが、

  よく見るとまだ若く、せいぜい三十代。

  若者は浮浪者につばを吐きかけ、

  その場をあとにする。

  ぼろぼろの浮浪者。

  しかし、顔は薄く笑っている。


◯リング(浮浪者のイメージ)

 
  ちりばめられたまばゆいライト。

  その下で繰り広げられているボクシング。

  観客の盛り上がりはピークを迎えている。

  殴り合うボクサーたち。

  ひとりはかつての浮浪者。

  若々しく精気に満ちている。

 

◯ボクシングジム(浮浪者のイメージ)

 
  フードをかぶり、いくつものストーブに

  囲まれているかつての浮浪者。

  ストーブに置かれたやかんからは

  勢いよく湯気が吹き出している。

  外からは蝉の鳴き声。

  ミイラのようにやつれた浮浪者。

  水道の蛇口は針金で縛られている。

  見開かれ、落ち窪んだ目はしかし、

  ギラギラと異様に光っている。

  やおらサンドバッグに向かい、

  打つ、打つ、打つ、打つ……。


 


◯リング(浮浪者のイメージ)

 
  キツいパンチをくらい、

  崩れるようにマットに沈むかつての浮浪者。

 

◯ボクシングジム(浮浪者のイメージ)

 
  バンテージがうまく巻けない。

  ぼやける視界。

  グローブを取ろうとしてつかみそこねる。

  震える手。

  かつての浮浪者、その手を凝視。

 

◯リング(浮浪者のイメージ)

 
  リングに沈む対戦相手。

  仁王立つかつての浮浪者。

  レフェリーは勝者としてかつての浮浪者を指す。

  リング下からジムの人間が飛び出してくる。

  ジムの人間に抱きかかえ上げられ、

  喜びを爆発させる。

  と突然、意識を失う。

  騒然となるリング。


◯繁華街の路地(夜)

 
  地面に転がったまま

  虚空を見つめる浮浪者。

  目はほとんど見えていないようだ。

  震える手で空に向かって

  弱々しくジャブを繰り出し絶命。

  その顔は満足そうな笑みを浮かべている。

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