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2016年8月

2016年8月25日 (木)

酔える下戸

◯バー

   呑んだ暮れている

   八街桧鶴(やちまたひづる20♀)

   桧鶴を横目に見ながらグラスを磨くマスター。

   カウンターにもたれているウェイトレスの

   西山弥葉(にしやまみつは21♀)

桧鶴「マスタぁ、もう一杯」

マスター「もうよしたら?」


桧鶴「いいからちょうだいよぅ」

   物を投げられながらステージで唄う

   桧鶴の映像インサート。

桧鶴「なんでだれも聴いてくれないんだよぅ。ううぅ」

   と、突っ伏して泣き出す。

弥葉「あんたの唄が酷いからでしょ」

   桧鶴、がばっと起きて、

桧鶴「(弥葉を指差し)あー、ミッチー冷たい!」

弥葉「だって事実じゃない」

桧鶴「(怯む)うぅ、少しくらい優しい言葉

 かけてくれてもいいんじゃない?」

弥葉「メリットがない事はしたくない」

桧鶴「(ぶすっとして)……ミッチーってドライだよね」

   つーんとしている弥葉。

桧鶴「うー、マスタぁもう一杯!」

弥葉
「あんた、よくノンアルコールビールで酔えるね」

桧鶴「うるさい!」

マスター「そのへんにしときなさいよ」

桧鶴「だぁってさー!」

弥葉
「そんなに荒れるくらいなら

 唄うのやめればいいでしょ」

桧鶴「生き甲斐なの!ほっといてよ!」

弥葉「何が楽しいんだか」

桧鶴「そりゃぁ……」

   物を投げられる映像インサート。

桧鶴「うぅ……」

   男に振られる映像インサート。

桧鶴「わーん」

   と泣き出す。

   マスター、弥葉、ため息。

弥葉「(興味無さそうに)はいはい、あたしが悪かった」

   桧鶴の頭をなでてやる。

桧鶴「(涙と鼻水で顔をぐじゅぐじゅにして)

 ……ミッチーってやさしいね」

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2016年8月18日 (木)

痛し痒し

◯ バー

弥葉「っはよーっす」

   西山弥葉(にしやまみつは♀21)

   入り口から入って来る。

   しかし、誰もいない。

   開店前の閑散とした店内。

   店の奥をのぞく弥葉。

弥葉「マスター?」

   返事は無い。

   ステージにはギター、ベース、ドラムなど、

   バーの楽器が置いてある。

   ベースが目に留まる弥葉。

   おもむろにベースを手に取り、一弾きしてみる。

   重く響く音。

弥葉「……」

   ベースを弾く弥葉。

   無表情で汗ひとつかかないが、

   それとは裏腹に情熱的なビート。

   弾く。

   弾く。

   弾く。

   弾き終えた弥葉、うっすら汗をかいているが、

   あくまで無表情。

   客席から拍手。

   見上げるとマスターがにこやかに拍手している。

     ×     ×     ×

   店内はお客でいっぱい。

   ステージはジャズバンドが演奏している。

   演奏を聴く者、会話を楽しむ者、

   銘々に楽しんでいるお客たち。

   カウンターでグラスを拭いているマスター。

   ウェイトレス姿の弥葉、グラスを下げて来た。

マスター「お、ありがとう」

弥葉「今日もいっぱいっすね」

マスター「ああ。それにしてももったいない」

弥葉「何がっすか?」

マスター「おまえのベースだよ。

 あれだけ弾けるのに披露しないなんて」

   客席から拍手。

   ジャズバンドが手をふりながら退場して行く。

   弥葉、それを眺めながら

弥葉「……別に。ただの趣味なんで。

 人に聴かせたくて弾いてるわけじゃないっすから」

マスター「うまく行かないもんだな。

 世の中にはへたくそでも人前に立ちたがる

 ヤツもいるってのに」

   色めき立つ客席。

   ステージでは桧鶴(ひづる♀20)

   へたくそな歌を唄っている。

弥葉「(桧鶴を見て)いっしょにされるのは心外っす」

   苦笑いするマスター。

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2016年8月11日 (木)

ヤヌスの鏡

◯ カラオケボックス

   八街桧鶴(やちまたひづる20♀)を含めた

   男女6人、隅っこの桧鶴から、

   男女交互に座っている。

   本を見ながら「何唄おっかなー」とか、

   「飲み物何にするー?」とか、みんな楽しげだ。

桧鶴N「今日はバイト先の人たちとカラオケ」

   武田(21♂)に飲み物を聞かれた桧鶴は

   「あ、じゃウーロン茶で」と硬い笑顔で返す。

   まぶしい武田の笑顔。

   ときめく桧鶴。

桧鶴N「なんと、憧れの武田くんに誘われたのだ!」

 

◯ バーのステージ(イメージ)

   気持ち良さそうに唄う桧鶴。

   あまりに酷い桧鶴の唄に、お客は口々に「やめろー」

   「ひっこめー」と罵声を浴びせられ、

   物を投げられている。

桧鶴N「唄がヘタなのはよーくわかってる」

 

◯ 再びカラオケボックス

   みんな間の手を入れたりしながら盛り上がっている。

桧鶴N「だから今日、唄は封印」

   控えめだけど、それでも精一杯盛り上げる桧鶴。

桧鶴N「たとえどんなに唄いたくとも」

   笑顔がひくひくしている。

桧鶴N「耐えるのだ」

武田「(桧鶴に気付き)八街さん、

 全然唄ってないじゃない」

桧鶴「(恐縮して)あたしはいいよ」

   と、手をブンブンブン。

桧鶴N「だめ」

武田「なんで?唄いなよ」

桧鶴「だって、すごくヘタなんだもん(赤面)」

桧鶴N「だめだってば」

武田「別におれだってうまくないしさ、

 みんないっしょだよ」

桧鶴「で、でも……」

桧鶴N「……」

武田「八街さんの唄聞きたいな」

桧鶴N「……少しくらいならいいよね」

   一同盛り上がる。

   照れ笑いを浮かべる桧鶴。

   唄い出す桧鶴。

   桧鶴のあまりの酷い唄に一同のけぞる。

   上機嫌で唄う桧鶴。

   と、突然店員がドリンクを持ってくる。

桧鶴「人が唄ってるのに入ってくんなー!」

武田「(引きつりながら)ちょっと、八街さん……」

桧鶴「(武田に)うるさいんじゃぼけー!」

   武田を突き飛ばす。

武田「(愕然と)や、やちま……」

   テーブルに足を乗せ、

桧鶴「(店員に)おまえもあたしの唄を聞けー!」

   一同ドン引き。

 

◯バー(夜)

   グラス片手にカウンターに突っ伏している桧鶴。

桧鶴「やってもーたぁあああああ」

   グラスを拭きつつ横目に桧鶴を見ているマスター。

   カウンターに背中から

   もたれかかってるウェイトレス。

ウェイトレス「あんた唄やめたら?」

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2016年8月 4日 (木)

これがあたしの生きる道

○ レストラン・フロア

  席はそれなりにうまり、穏やかな店内。

  パスタを運ぶウェイトレス、桧鶴(ひづる♀20)。

桧鶴N「私には取柄がない」

  蹴躓いてサラリーマンの背中にパスタをかけてしまう。

     ×     ×     ×

  気の弱そうな店長とともに、

  激怒するサラリーマンに平謝りする桧鶴。

 

○ レストラン・厨房

  調理人の格好をした桧鶴。

  野菜を切ろうと包丁を握る。

桧鶴N「人並みのことすらまともにできない」

  包丁で指を切って血が噴き出し、あわてた桧鶴は

  火にかけていた鍋にぶつかって

  隣の人に煮立った鍋の中身をかけてしまう。

  悶絶する隣の人。

     ×     ×     ×

  気の弱そうな店長に平謝りする桧鶴。

  店長は困り顔で洗い場を指差す。

 

○ レストラン・洗い場

  皿を洗う桧鶴。

桧鶴N「まったくのダメ人間なのだ」

  洗った先から皿を割っていくが、それに気づかない。

  気の弱そうな店長、困り顔で桧鶴を止めようとする。

 

○ 楽屋

  鏡の前でしょぼんとして座っている桧鶴。

桧鶴N「そんな私でも、情熱を燃やしてるものがある」

  ドアをノックする音。

桧鶴「(びくっとして)はい!」

  鏡に映っているドアが開き、男性が顔だけ出して、

男 「桧鶴、出番だよ」

 

○ バーのステージ

  客に拍手を送られ、

  手を振りながら退場するバンド。

  照明が変わり、静かになる客席。

  ドレスを着た桧鶴が登場、マイクの前に立つ。

桧鶴N「それは唄うこと! 歌は私の生きる証なんだ」

  唄い出すが酷くヘタ。

  一斉に引きつり、のけぞるお客たち。

  気づかずに情感込めて唄っている桧鶴。

  ステージに物が投げ込まれるが、なおも気づかず唄う。

  顔におしぼりが当たってはじめて気づく。

  「やめろー」「ひっこめー」などなど罵声とともに、

  ステージに物を投げ込むお客たち。

桧鶴N「たとえヘタであっても、

 私は唄う事が生き甲斐なんだ!」

店内アナウンス「物を投げないでください。

 物を投げないでください」

桧鶴「(お客に向かって)うるせー!

 黙ってあたしの唄を聴けー!」

  ヒートアップするお客。

  頭に灰皿が当たり、

  かえるがつぶれたような声を出す桧鶴。

桧鶴「(お客に向かって)上等だ!

 かかって来いやー!」

  と右手をお客に突き出す。

  手にはモザイク。

  騒然となるフロア。

  カウンターで頭を抱えるマスター(♂50)。

  カウンターに寄りかかってステージを

  冷ややかに眺めているウェイトレス(♀21)。

ウェイトレス「(あきれたように)毎度毎度あれで、

 よくステージに上げますね、マスター」

マスター「(渋顔で)……うん、それがね、

 彼女が立つ日はなぜか、席が全てうまってしまうんだ」

  客に向かって吼えている桧鶴を遠目に見ながら

マスター「なんでかな。へったくそなんだけどさ、

 彼女の唄、なんか引っかかるんだよ」

  酒瓶が桧鶴にヒット、卒倒する。

ウェイトレス「気のせいじゃないっすかぁ?」

マスター「(苦笑いで)そうかも」

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