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2016年10月

2016年10月20日 (木)

Zenyatta

◯ バー

   店内はお客でいっぱい。

   その中には桧鶴(ひづる♀20)の姿も。

   ステージではバンドがポップスを唄っている。

桧鶴(心の声)「マスターは何を見せようとしてるんだろう」

   空いたグラスに残った氷を指でかき混ぜている。

   ステージの袖でがたがたと騒々しい音が。

   どよめく観客、青ざめるバンド。

桧鶴「なんだなんだ?」

 「ほーっほっほっほっ!」

   人の制止を振り切り、

   ゴスロリ女がギターを下げ、

   高らかに笑いながら現れる。

バンドの女「あんた、クビだっていったでしょ!?」

ゴスロリ女「知らないわ、そんなこと!」

   バンドの連中が止めようとするのもお構い無く、

   ギターをかき鳴らす。

   メタルのようなノイジーなギター。

桧鶴「なんなの!?」

   思わず耳を覆う。

   が、気づく。

桧鶴(心の声)「この人、うまい!?」

   バンドの連中の手によって袖へと押し込められて行くが、

   ギターを弾き続けるゴスロリ女。

   どよめいていた客の中から歓声が上がる。

   それが引き金となって、盛り上がる客席。

ゴスロリ女「わかった?お客はワタシを望んでいるのよ」

   と笑う。

   バンドの連中はがっくりしてゴスロリ女を解放。

   ゴスロリ女とともに演奏を再開するがゴスロリ女の独壇場。

   すっかりポップスではなくなってしまったが、

   客席は沸きに沸いている。

ゴスロリ女「ワタシのギターを聴かせて差し上げるわ」

   ほーっほっほっほっと高らかに笑う。

   桧鶴、マスターのいるカウンターへ。

桧鶴「(ゴスロリ女を指差し)マっ、マスター、

  なんなのアイツ?」

マスター可憐(かれん)。ギタリストだ」

桧鶴「いやいや、そーじゃなくて」

マスター「腕はいいんだが性格にちょっと問題があってな」

桧鶴「あるなんてもんじゃないでしょ!

  めちゃめちゃじゃない!」

マスター「そうか?」

桧鶴「そうかって……」

マスター「ま、確かにどのバンドでもすぐ首になってしまってね。

  長続きしないんだ」

桧鶴「当然でしょお」

マスター「どうだ、彼女と出来るか?」

桧鶴「ムリムリムリ!ぜっっったいムリ!!」

マスター「彼女とならステージに立たせてやってもいいんだが」

桧鶴「え゛?」

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2016年10月13日 (木)

Adirato

◯ バー

   店内を掃除しているマスター。

   入り口のドアが開く。

   振り向くと桧鶴(ひづる♀20)が立っている。

   気に留める素振りもなく、

   桧鶴に背を向け掃除を再開する。

マスター「どうした」

桧鶴「唄わせてください」

マスター「やめたんじゃなかったのか」

桧鶴「唄いたいんです。どうしても唄いたいんです!

  一度はやめました。

  始めはそれで楽になったけど、あたしの中には

  常に唄があったんです。

  それに気づいた時から唄わない事が苦痛になったんです」

マスター「ステージには上げられないと言ったはずだが」

桧鶴「……唄わせてください」

マスター「だめだ」

桧鶴「マスター」

マスター「明日、店に顔を出しなさい」

桧鶴「え?」

マスター「唄わせようってんじゃない。客としてだ」

桧鶴「どういう……?」

マスター「開店の準備をしなきゃいけない。

  もう帰りなさい」

桧鶴「はい……」

   店を後にする桧鶴。

   入れ違いに弥葉(みつは♀21)が入って来る。

弥葉「おはようございます。桧鶴、来てたんですか?」

マスター 「そんな事どうでもいいだろう。

  それより、遅いじゃないか。

  もっと早くに来てなきゃだめだろう」

弥葉「え?いつもより15分も早いですけど?」

マスター「つまり普段から遅いと言っているんだ」

弥葉「いつも、こんなに早くに来るなんて他にやる事無いのかって

  言ってませんでしたっけ?」

マスター「それは……言葉の綾だよ。

  もういい。早く支度して来なさい」

弥葉「……。はい」

  奥に引っ込む弥葉。

  くすりと笑い、

弥葉(心の声)「桧鶴が来た事がよっぽどうれしかったんだな」

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2016年10月 6日 (木)

唄を忘れたカナリヤ

◯ 遊園地

   武田の元へと走る桧鶴(ひづる♀20)

   待っていた武田(21♂)に平謝り。

   恐縮する武田。

桧鶴N「唄はやめた」

   頭がぼさぼさになっているのを武田が教えてくれる。

   慌てて直すが、こっちを直せばあっちがはね、

   あっちを直せばこっちがはねる始末。

   そんな様を武田が笑い、桧鶴も笑う。

桧鶴N「あれだけ悩んでいたのがばからしくなるくらい

  日常は平穏で楽しい」

   武田とともにジェットコースターではしゃぐ桧鶴。

   うずくまる桧鶴の背中を武田がさする。

桧鶴N「もう煩わされる事は無い」

   食事中、コーヒーをスカートにこぼす桧鶴。

   熱さのあまり、反射的にスカートをめくり上げ、

   武田にパンツを見せつけてしまう。

   顔を背ける武田、赤面する桧鶴。

桧鶴N「唄がなくとも生きて行ける」

   武田と別れる桧鶴。

   武田に手をふる桧鶴の表情はしあわせそのもの。

   鼻歌を唄いながら家路に着く。

   無意識に鼻歌を唄っている自分に気付き、

   はっとして立ち止まる。

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