◇カチハヤ

2010年12月 7日 (火)

生活の知恵

◯ 小さなラーメン屋

   店主が客と談笑している、庶民的な店。

   中東系の男が入口の戸を開けて顔を出し、

   たどたどしい日本語で話す。

中東系の男「あの、豚、使ってますか?」

店主「使ってますよ」

中東系の男「……」


   しばし店主を見つめた後、戸を閉める。

客「信心深いといろいろ大変だね」

   少ししてまた戸が開くーー同じ男だ。

中東系の男「豚、使ってますか?」

店主「? だから使ってますよ」


   戸を閉める。

客「なにあれ?」

   少ししてまた戸が開くーーまた同じ男。

中東系の男「豚、使ってますか?」

   店主、言いかけてあっと気づき、

店主「使ってないです」

   中東系の男、席につき、

中東系の男「大盛りください」

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2010年11月16日 (火)

最近のえらい人

◯ 都内の高級住宅街

   立ち並ぶ豪邸のひとつの前で二人の主婦

   が立ち話をしている。

主婦A「こちらのおじいちゃん、東大病院に

 入院しているの? さすがね」

主婦B「紹介状がないと入院させてもらえな

 いんだって自慢してたわ」


◯ 東大病院・廊下


   廊下の端で中年の夫婦が声を潜めて話を

   している。

妻「もう長くないみたい」

夫「葬式どうする?」

妻「こじんまりと済ませればいいわよ」

夫「そうはいかないだろう。お父さんだって

 それなりの立場の人間なんだし」

妻「生きている間は、でしょ。派手なお葬式

 やってお客が殆ど来ないなんて、私嫌よ」


   夫、反論しようとするが、それも一理あ

   ると思い、腕を組んで黙ってしまう。

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2010年10月26日 (火)

ジャンプ

◯ 住宅街

   買い物袋を提げた男が歩いてくる。

   前方に少年がいる。

   少年は道端の石の上で何度もジャンプを

   繰り返している。

   男、立ち止まり何となくその様子を見る。

   少年、男に気づき、走り去る。


◯ 男の自宅

   男が玄関から入ってくる。

   リビングへと入っていく。

   息子が携帯ゲーム機で遊んでいる。

男「さっき表でお前の友達を見たぞ」

息子「(黙ったまま)」

男「?」


   男、台所へ行きしな、ゲーム画面を見る。

   マリオが敵キャラを踏んづけている。

   息子の表情はどこか悲しげ。

   男、納得したように小さく頷き、台所へ

   と退出していく。

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2010年10月19日 (火)

バドミントン

○ 住宅街の道

   空に上がっては落ち、上がっては落ちを

   繰り返すバドミントンのシャトル。

   少年が独り寂しくバドミントンをしている。

別の少年「ねぇ」

   別の少年が少年に言った。


○ 家の中

   少年は廊下を走りーー

   押入れを勢い良く開けーー

   中を引っ掻き回す。

   埃まみれになりながら、バドミントンの

   ラケットを見つけた。


○ 住宅街の道

   もう一本のラケットを手に家から嬉しそ

   うに駆け出てくる少年。

   路上にはラケットが置かれているだけ。

   別の少年はいない。

   意気消沈する少年。

   ラケットを拾って家に戻ろうとする。

   誰かが家の前まで駆けてきた。

   別の少年だ。手には自分のと思しきラケ

   ットを持っている。

別の少年「(微笑みかける)」

少年「(微笑み返す)」

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2010年10月 5日 (火)

朝ご飯

○ 居酒屋

   気持よく酔った部長が部下たちに自慢話

   をしいてる。

若手社員AのN「部長はよく奥さんの自慢話

 をする」

部長「ウチのかみさんは本当によく出来た人

 でね。家事なんかもう完璧。朝だって私よ

 りずっと早く起きてご飯の用意をしてく

 れるんだ」


   感心している様子の部下たち。

   若手社員Aもその中にいる。

若手社員AのN「その後、僕は知ることになる」


○ オフィス街(朝)


   駅から吐き出されてくる人々。

   欠伸をしながら歩く若手社員A。

   マクドナルドの店内に部長の姿を見かける。

   沈んだ様子で食事をしている。

若手社員AのN「部長が毎日、本当はどこで

 朝飯を食べているのかを」

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2010年9月28日 (火)

映画レビュー 「絞死刑」

 ラピュタ阿佐ヶ谷の佐藤慶特集で大島渚監督の 『 絞死刑 』 を見てきました。

※ 内容に関しては、上にあるアマゾンのリンクか、ウィキペディア( 『 絞死刑 』 )をご参照ください。

 とても面白かったです。

 僕はこの作品を「死刑制度をテーマにした作品」というより、「死刑制度を題材にして、日常と非日常というテーマについて描いた作品」ではないだろうかと思いました。

 日常とか非日常なんていってもわかりにくいと思いますが、日常というのは普段見えている面のことで、非日常というのは普段見えていない面のこと、という感じに考えてください。

 人間が普通に生活している分には、非日常の面というのはなかなか見えません。

それが見える一番端的な例が戦争です。

 戦争状態に置かれると人は、平時とは違った振る舞いをします。

 その振る舞いはときに平時では考えられないような残虐な行為であったりするわけですが、そういう残虐な行為をした人が平時でも乱暴者だったりするかというと決してそうではないのです。

 確か、遠藤周作の小説で、近所のおっちゃんが戦争で人を殺した話を銭湯で自慢げに話すというエピソードがあったと思うのですが、このおっちゃんが残虐性の高い話をこともなげに話せるのは、それが日常と切り離された非日常のことであるからです。

 つまり日常と非日常は完全に別個のものなんですね。

 映画の中でも佐藤慶演じる所長が酒席で戦場において行われた処刑に加わった話をしますが、所長はその後罪に問われることなく公務員として普通に生活できていますし、周囲の人間も彼をその事実をもって残虐な人間だと見ているわけでもないので、やっぱりここでも日常と非日常とは分けて考えられているわけです。

 言い換えれば、社会がそういうふうに認知してくれているわけです。

 ただ、戦争が終わってしまうと、今まで国が用意してくれていた戦場という、非日常を体験する場がなくなってしまいます。

 しかし、場がなくなっても、人間というのは必ず非日常的部分を心に持っています。

 人によっては、それを小説や映画のようなフィクションの世界に浸ることで発散したりすることもできるわけですが、中にはそういう代替手段を持たない人もいます。

 さあ困った。

 こうなると日常の中で非日常的行為に出るしかありません。

 映画の中でRのモノローグにおいて「日常と非日常がからみ合って云々」というような感じのセリフがあったと思うんですが、これはおそらくそういうことだと思います。

 日常と非日常。

 そこが日常か非日常かは、結局は当人の認識の問題なので、当人は非日常だと思って行ったことが、日常の法によって裁かれてしまう。

 しかもその結果執行される刑が死刑、すなわち殺人という非日常的行為であるという皮肉。

 さらにいうなら、その死刑を実際に行うのは、一部の特権階級やエリートのような特殊な人間ではなく、日常において僕らの周りに普通に存在している公務員(刑務官)であり、彼らは非日常的行為である殺人を、日常である仕事の一環として行うわけです。

 これが日常と非日常の絡まりです。

 で、それは映画の展開自体にも色濃く出ております。

 後半あたりからシュールな部分と現実的なやりとりがゴチャ混ぜになってくるという展開になるのは、これまでのところで僕が書いてきたようなことを映画表現として満を持して前面にだした結果なのではないかというふうに思うのです。

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2010年7月20日 (火)

緊急事態

〇 安アパート・二階の一室

   若い女、大きなバッグを手に抜き足差し

   足で玄関へと進む。

   背後で、寝ていた若い男が目を覚ます。

   若い女、ドキリとし、慌ててバッグを玄

   関脇の収納に放り込む。

若い男「おはよ」

若い女「おはよう」


   若い男、トイレに入っていく。

   若い女、大急ぎでバッグを取り出すと、

   音を立てないように玄関から出て行く。


〇 同・廊下

   けたたましい蝉時雨と真夏の太陽。

   柵から身を乗り出して手を振る若い女。

   下に停まった車の運転席から別の男が

   〝早く〟と手招きしている。

   バッグを持って行こうとした刹那――

若い男の声「ねぇ、紙ちょうだい」

   若い女、足許を見ると玄関ドアの前に「古

   紙回収」と書かれた紙に包まれたトイレ

   ットペーパーが一つ置かれている。

若い男の声「ねぇ、紙」

   手招きしている別の男。

   置かれたトイレットペーパー。

   何度か二つを交互に見、どうしていいか

   わからず動けなくなってしまう若い女。

   じっとりと汗が滲んでくる。

   せみ時雨が一層けたたましく響く。

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2010年7月 6日 (火)

凹み

〇 子供部屋(夕方)

   スーツ姿の母親(34)が入室。

   穏やかな寝息を立てている少年(6)。

   テーブルには食べかけの手作り弁当。

   母親、ほっとした様子でベッドサイドへ。

   互いの額を合わせて熱を測る。

   いとおしそうに少年の顔に触れる。

   床に土がこぼれているのに気づく。

   土はベランダへと続いている。

   ベランダに出る。

   手すりの傍にある、何も植えていないプ

   ランターの土が二箇所凹んでいる。

   手すりから外を見る。


〇 イメージ

   朝、スーツ姿で歩いていく母親の後姿。

   ベランダ、プランターの土が二つの小さ

   な足が乗って凹む。

   手すりから顔を出し、少年が心細げに遠

   ざかる母親の後姿を見詰めている。

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2010年6月15日 (火)

父の葬式

〇 一軒家・縁側(夜)

   喪服姿の男(中年)が煙草を吸っている。

   面している裏庭には鉄製の子供用ブラン

   コが放置され錆び付いている。

   男の妻が奥からやってくる。

妻「彰くん、また泣いてた」

男「あいつは俺と違って親父に可愛がられて

 たからな」

妻「弟だからでしょ」

男「親父は俺を嫌ってたんだ」

妻「兄弟の場合、長男っていうのはどうした

 って損なものよ。でも、急だったわね、お

 父さん。倒れる何日か前に会ったときはあ

 んなに元気だったのに」

男「今思えば、あのとき聞いておくんだったな」

妻「――」

男「俺はあんたの実の子か、って」


   煙草を指で飛ばす。

   ブランコに当たって地面に落ちる。

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2010年6月 1日 (火)

イメージチェンジ

〇 とある地方都市の駅前

   たくさんの人通りでごった返している。

   バス停で待っている人多数。

   バスが停車。

   乗り込んでいく客たち。

   バス停の横にある掲示板の前に立って新

   聞を読んでいる眼鏡の男がいる。

   真面目で堅物そうな印象。

運転手「(眼鏡の男に)乗らないの?」

   眼鏡の男、笑顔で軽くお辞儀。

   走り去るバス。

   眼鏡の男の顔からスッと笑みが消える。

   眼鏡の男、新聞を畳み、手を背中に回し

   て歩き出す。

   眼鏡の男が動きだした際、紙の破ける音。

   掲示板に破れた指名手配写真。

   手配書の大部分は破れてなくなっている

   が、残った顔の部分だけでもそれが眼鏡

   の男から眼鏡を取った顔にそっくりだと

   わかる。

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