◇Samiano de Angelis

2016年10月20日 (木)

Zenyatta

◯ バー

   店内はお客でいっぱい。

   その中には桧鶴(ひづる♀20)の姿も。

   ステージではバンドがポップスを唄っている。

桧鶴(心の声)「マスターは何を見せようとしてるんだろう」

   空いたグラスに残った氷を指でかき混ぜている。

   ステージの袖でがたがたと騒々しい音が。

   どよめく観客、青ざめるバンド。

桧鶴「なんだなんだ?」

 「ほーっほっほっほっ!」

   人の制止を振り切り、

   ゴスロリ女がギターを下げ、

   高らかに笑いながら現れる。

バンドの女「あんた、クビだっていったでしょ!?」

ゴスロリ女「知らないわ、そんなこと!」

   バンドの連中が止めようとするのもお構い無く、

   ギターをかき鳴らす。

   メタルのようなノイジーなギター。

桧鶴「なんなの!?」

   思わず耳を覆う。

   が、気づく。

桧鶴(心の声)「この人、うまい!?」

   バンドの連中の手によって袖へと押し込められて行くが、

   ギターを弾き続けるゴスロリ女。

   どよめいていた客の中から歓声が上がる。

   それが引き金となって、盛り上がる客席。

ゴスロリ女「わかった?お客はワタシを望んでいるのよ」

   と笑う。

   バンドの連中はがっくりしてゴスロリ女を解放。

   ゴスロリ女とともに演奏を再開するがゴスロリ女の独壇場。

   すっかりポップスではなくなってしまったが、

   客席は沸きに沸いている。

ゴスロリ女「ワタシのギターを聴かせて差し上げるわ」

   ほーっほっほっほっと高らかに笑う。

   桧鶴、マスターのいるカウンターへ。

桧鶴「(ゴスロリ女を指差し)マっ、マスター、

  なんなのアイツ?」

マスター可憐(かれん)。ギタリストだ」

桧鶴「いやいや、そーじゃなくて」

マスター「腕はいいんだが性格にちょっと問題があってな」

桧鶴「あるなんてもんじゃないでしょ!

  めちゃめちゃじゃない!」

マスター「そうか?」

桧鶴「そうかって……」

マスター「ま、確かにどのバンドでもすぐ首になってしまってね。

  長続きしないんだ」

桧鶴「当然でしょお」

マスター「どうだ、彼女と出来るか?」

桧鶴「ムリムリムリ!ぜっっったいムリ!!」

マスター「彼女とならステージに立たせてやってもいいんだが」

桧鶴「え゛?」

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2016年10月13日 (木)

Adirato

◯ バー

   店内を掃除しているマスター。

   入り口のドアが開く。

   振り向くと桧鶴(ひづる♀20)が立っている。

   気に留める素振りもなく、

   桧鶴に背を向け掃除を再開する。

マスター「どうした」

桧鶴「唄わせてください」

マスター「やめたんじゃなかったのか」

桧鶴「唄いたいんです。どうしても唄いたいんです!

  一度はやめました。

  始めはそれで楽になったけど、あたしの中には

  常に唄があったんです。

  それに気づいた時から唄わない事が苦痛になったんです」

マスター「ステージには上げられないと言ったはずだが」

桧鶴「……唄わせてください」

マスター「だめだ」

桧鶴「マスター」

マスター「明日、店に顔を出しなさい」

桧鶴「え?」

マスター「唄わせようってんじゃない。客としてだ」

桧鶴「どういう……?」

マスター「開店の準備をしなきゃいけない。

  もう帰りなさい」

桧鶴「はい……」

   店を後にする桧鶴。

   入れ違いに弥葉(みつは♀21)が入って来る。

弥葉「おはようございます。桧鶴、来てたんですか?」

マスター 「そんな事どうでもいいだろう。

  それより、遅いじゃないか。

  もっと早くに来てなきゃだめだろう」

弥葉「え?いつもより15分も早いですけど?」

マスター「つまり普段から遅いと言っているんだ」

弥葉「いつも、こんなに早くに来るなんて他にやる事無いのかって

  言ってませんでしたっけ?」

マスター「それは……言葉の綾だよ。

  もういい。早く支度して来なさい」

弥葉「……。はい」

  奥に引っ込む弥葉。

  くすりと笑い、

弥葉(心の声)「桧鶴が来た事がよっぽどうれしかったんだな」

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2016年10月 6日 (木)

唄を忘れたカナリヤ

◯ 遊園地

   武田の元へと走る桧鶴(ひづる♀20)

   待っていた武田(21♂)に平謝り。

   恐縮する武田。

桧鶴N「唄はやめた」

   頭がぼさぼさになっているのを武田が教えてくれる。

   慌てて直すが、こっちを直せばあっちがはね、

   あっちを直せばこっちがはねる始末。

   そんな様を武田が笑い、桧鶴も笑う。

桧鶴N「あれだけ悩んでいたのがばからしくなるくらい

  日常は平穏で楽しい」

   武田とともにジェットコースターではしゃぐ桧鶴。

   うずくまる桧鶴の背中を武田がさする。

桧鶴N「もう煩わされる事は無い」

   食事中、コーヒーをスカートにこぼす桧鶴。

   熱さのあまり、反射的にスカートをめくり上げ、

   武田にパンツを見せつけてしまう。

   顔を背ける武田、赤面する桧鶴。

桧鶴N「唄がなくとも生きて行ける」

   武田と別れる桧鶴。

   武田に手をふる桧鶴の表情はしあわせそのもの。

   鼻歌を唄いながら家路に着く。

   無意識に鼻歌を唄っている自分に気付き、

   はっとして立ち止まる。

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2016年9月29日 (木)

エクストラドライマティーニ

◯ バー

   カウンターで呑んでいる

   桧鶴(ひづる♀20)弥葉(みつは♀21)

   マティーニを呑みもせず、

   オリーブでかき混ぜている桧鶴。

桧鶴「マスター元気?」

弥葉「まあね」

桧鶴「お客さん、入ってる?」

弥葉「まあね」

桧鶴「じゃあさ──」

弥葉「そんなに気になるなら店に来れば?」

   桧鶴、手を止め、

桧鶴「いいの!?」

弥葉「お客を拒む理由は無い」

   桧鶴、グラスに目を落し

桧鶴「唄わせちゃくれないか……」

弥葉「唄いたいの?」

 桧鶴が唄えども聴いてないお客の画インサート。

桧鶴「……」

   マティーニをぐいっと呑み干し

桧鶴「唄、やめようかな……」

   突っ伏す。

弥葉「あんたの人生だ。好きにしたらいい。

   自分が何をしたいのか、よく考えてみるんだね」

   弥葉、お金を置いて席を立つ。

   店の入り口で桧鶴を顧みる。

   突っ伏している桧鶴。

   店を後にする弥葉。

   空になったグラスを見つめ

桧鶴「あたし、何したいんだろう……」

   グラスにはオリーブが残っている。

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2016年9月22日 (木)

◯ カラオケボックス

    盛り上がるみんなとは対照的に

   一人浮かない八街桧鶴(やちまたひづる20♀)

マスター(声)「ステージには上げられない」

   グラスを磨くマスターの画インサート。

桧鶴「(ぼそっと)上手に唄えたのに……」

   武田(21♂)桧鶴に気付き、

武田「どうかしたの?八街さん」

桧鶴「ううん、なんでもない」

   武田、桧鶴にマイクを渡し、

武田「はい、次八街さんの番だよ」

桧鶴「うん」

   身構える一同。

   マイク片手に暴れる桧鶴の画インサート。

   唄い出す桧鶴。

   音程も外さず、普通に唄っている。

   一同、怪訝な顔をする。

武田「八街さん、上手じゃない」

   にわかに盛り上がる。

   皆一様に安堵の表情。

   少し気が晴れて来た桧鶴。

   ふと気付く。

   曲を探しているもの、話をしているもの、

   注文しているもの……

   桧鶴の歌を聴いていない。

   だれも聴いていないバーのお客の画インサート。

   唄を止める。

武田「どうしたの?」

桧鶴「ごめんなさい、ちょっと気分悪くて」

   部屋を出て行く。

武田「八街さん?」

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2016年9月15日 (木)

理由

◯バー

   カウンターでグラスを磨いているマスター

   弥葉(みつは♀21)は店じまいをしている。

桧鶴「おつかれさまでしたぁ」

   楽屋から桧鶴(ひづる♀20)が脳天気にやってくる。

弥葉「おつかれ」

マスター「……」

桧鶴「(うれしそうに)マスター、

 今日は初めて物を投げられませんでしたよ!」

マスター「そう」

桧鶴「なんか、こう、つかんだ気がするんですよね!」

マスター「……」

桧鶴
「どうでしたか、マスター?」

マスター「楽しかったかい?」

桧鶴「そりゃあ、楽しいですよ。ちゃんと聞いてもらえたんですから」

マスター
「みんな聞いてたのかな」

桧鶴「え?」

マスター「あんな唄い方をするなら、もうステージには上げられないな」

桧鶴「なんでですか!?へたくそな唄い方した方がいいっていうんですか!?」

マスター「それすらわからないって言うなら、ますますステージには上げられない」

桧鶴「そんな……!」

弥葉「マスター」

マスター「弥葉、キミももう上がりなさい」

弥葉「……」

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2016年9月 8日 (木)

良し悪し

◯ バー

   ステージで唄っている桧鶴(ひづる♀20)

   お客たちは銘々に酒を傾け、会話を楽しんでいる。

   カウンターにもたれてステージを見ている

   ウェイトレスの弥葉(みつは♀21)

   グラスを磨いているマスター

弥葉「あいつ、唄うまくなったっすね」

マスター「そうか?」

   桧鶴の唄にのけぞる客の画インサート。

弥葉「だって音程外してないし、

 ちゃんと譜面通りに唄えてるじゃないっすか」

マスター「それくらい誰だってできる」

弥葉「でもあいつはそれすらできなかったんすよ?」

マスター「……」

   黙々とグラスを磨いている。

弥葉「……空いてるグラス下げてきます」

   客席に向かう。

弥葉M「さっきから同じグラスばかり磨いている」

   唄っている桧鶴を見る。

弥葉M「まともに唄えてるじゃないか。

 なにが気に入らないんだ?」

   お客に物を投げられながらも

   唄っている桧鶴の画インサート。

   その目は輝いている。

   今の桧鶴。

   その表情は心無しか、浮かないように見える。

弥葉「?」

   客席を見渡す。

   誰も唄を聞いていない。

弥葉「……」

   ちらりとマスターを見る。

弥葉M「これは……?」

   まだ同じグラスを磨いている。

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2016年9月 1日 (木)

風と太陽?

◯ バー

   ステージがあり、女性がブルースを歌っている。

   客席でグラスを傾けつつ聴いている   

島田(♂27)と吉川(♀25)。

島田「なかなかいいお店でしょ?」

吉川「(退屈そうに)まあまあかなぁ」

島田「ここはさ、バンドとかシンガーとかが出て来てさ、

 生音で音楽を流してくれるんだ」

吉川「(ケータイを取り出す)ふーん」

島田
「(必死)あのさ、良かったら

 また誘ってもいいかな?」

吉川「(ケータイをいじりだす)えー」

   ステージから下がる女性シンガーに

   拍手が送られている。

島田「イタリーの美味しいお店見つけたんだ。

 小さいけど飾り気のない、雰囲気のいい店でね。

 吉川さんもきっと気に入ると思うんだ」

吉川「(興味無さそうに)どーしよっかなー」

島田「あのさ、おれ、実はさ」

   ステージから酷い唄。

   のけぞる島田、引きつる吉川。

   ステージでは桧鶴(ひずる20♀)が唄っている。

吉川「なにこれ!?」

島田「いや、あの、彼女ここの名物でさ。

 なんていうか……」

吉川「なんなのこの心の底が

 ざわざわするような唄は。サイっテー!」

島田「だ、だけどね、だけど……」

吉川「ごはんにジャムをかけたような

 不愉快さだわ!だけど……」

島田「だけど?」

吉川「……席を離れられない」

島田「そ、そうなんだよ!

 なぜか聴かされちゃうんだよね!

 なんて言うのかなー。あの、ほら……」

吉川「島田さん」

島田「はい!」

吉川「ここだったらまた誘われてあげてもいいよ」

島田「え?」

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2016年8月25日 (木)

酔える下戸

◯バー

   呑んだ暮れている

   八街桧鶴(やちまたひづる20♀)

   桧鶴を横目に見ながらグラスを磨くマスター。

   カウンターにもたれているウェイトレスの

   西山弥葉(にしやまみつは21♀)

桧鶴「マスタぁ、もう一杯」

マスター「もうよしたら?」


桧鶴「いいからちょうだいよぅ」

   物を投げられながらステージで唄う

   桧鶴の映像インサート。

桧鶴「なんでだれも聴いてくれないんだよぅ。ううぅ」

   と、突っ伏して泣き出す。

弥葉「あんたの唄が酷いからでしょ」

   桧鶴、がばっと起きて、

桧鶴「(弥葉を指差し)あー、ミッチー冷たい!」

弥葉「だって事実じゃない」

桧鶴「(怯む)うぅ、少しくらい優しい言葉

 かけてくれてもいいんじゃない?」

弥葉「メリットがない事はしたくない」

桧鶴「(ぶすっとして)……ミッチーってドライだよね」

   つーんとしている弥葉。

桧鶴「うー、マスタぁもう一杯!」

弥葉
「あんた、よくノンアルコールビールで酔えるね」

桧鶴「うるさい!」

マスター「そのへんにしときなさいよ」

桧鶴「だぁってさー!」

弥葉
「そんなに荒れるくらいなら

 唄うのやめればいいでしょ」

桧鶴「生き甲斐なの!ほっといてよ!」

弥葉「何が楽しいんだか」

桧鶴「そりゃぁ……」

   物を投げられる映像インサート。

桧鶴「うぅ……」

   男に振られる映像インサート。

桧鶴「わーん」

   と泣き出す。

   マスター、弥葉、ため息。

弥葉「(興味無さそうに)はいはい、あたしが悪かった」

   桧鶴の頭をなでてやる。

桧鶴「(涙と鼻水で顔をぐじゅぐじゅにして)

 ……ミッチーってやさしいね」

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2016年8月18日 (木)

痛し痒し

◯ バー

弥葉「っはよーっす」

   西山弥葉(にしやまみつは♀21)

   入り口から入って来る。

   しかし、誰もいない。

   開店前の閑散とした店内。

   店の奥をのぞく弥葉。

弥葉「マスター?」

   返事は無い。

   ステージにはギター、ベース、ドラムなど、

   バーの楽器が置いてある。

   ベースが目に留まる弥葉。

   おもむろにベースを手に取り、一弾きしてみる。

   重く響く音。

弥葉「……」

   ベースを弾く弥葉。

   無表情で汗ひとつかかないが、

   それとは裏腹に情熱的なビート。

   弾く。

   弾く。

   弾く。

   弾き終えた弥葉、うっすら汗をかいているが、

   あくまで無表情。

   客席から拍手。

   見上げるとマスターがにこやかに拍手している。

     ×     ×     ×

   店内はお客でいっぱい。

   ステージはジャズバンドが演奏している。

   演奏を聴く者、会話を楽しむ者、

   銘々に楽しんでいるお客たち。

   カウンターでグラスを拭いているマスター。

   ウェイトレス姿の弥葉、グラスを下げて来た。

マスター「お、ありがとう」

弥葉「今日もいっぱいっすね」

マスター「ああ。それにしてももったいない」

弥葉「何がっすか?」

マスター「おまえのベースだよ。

 あれだけ弾けるのに披露しないなんて」

   客席から拍手。

   ジャズバンドが手をふりながら退場して行く。

   弥葉、それを眺めながら

弥葉「……別に。ただの趣味なんで。

 人に聴かせたくて弾いてるわけじゃないっすから」

マスター「うまく行かないもんだな。

 世の中にはへたくそでも人前に立ちたがる

 ヤツもいるってのに」

   色めき立つ客席。

   ステージでは桧鶴(ひづる♀20)

   へたくそな歌を唄っている。

弥葉「(桧鶴を見て)いっしょにされるのは心外っす」

   苦笑いするマスター。

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